一国における政策的な考えや制度のあり方は、カジノの性格や施行実務のあり方に大きな影響を与える側面がある。1980年代以前においては、欧州においても、カジノ施行に絡み欧州マフィア等の組織悪が一部の国の施行に関与していた事も事実の様だ。但し、これらの国を含めて、制度や規制が段階的に整備されると共に、産業としての成熟化・発展が見られ、現在においては組織的な悪の関与が欧州各国におけるカジノ施行に存在するという状況には無い。欧州でも、カジノ・ゲーミングとは、もっとも厳格な規制の対象となる産業でもあり、これに参入し、運営に関与する主体は多様な規制を受け、決して自由な施行や経営がなされているわけではない。
この運営や経営の在り方には、下記等の特色がある。
① 規制下にあるカジノ施行とカジノ産業:
欧州各国でも、制度や規制は段階的に整備され、これに伴い、施行を担う企業が段階的に成長・発展し、産業としての成熟化が実現している。現代欧州の全ての国において、カジノ施行は完璧に管理され、規制された産業であると共に、欧州諸国においても必ずしも自由な経営が保証される産業ではありえない。その設置から始まり、経営や運営に至るまでかなりの制約がある。
② 施行に係わる主体に要求される清廉潔癖性:
上記は、施行に関与しうる個人ないしは組織に対し、極めて高い倫理感や清廉潔癖性、遵法精神が要求されることを意味している。この厳格度のレベルは米国と大きな差異はない。 但し、その実践のあり方は、個別の国の慣行を反映し、異なる側面がある。かかる理念を制度の中に積極的に取り上げる国もあれば、制度の枠組みにはかかる理念を入れず、考慮されるべき企業の倫理観に留め、施行者にその実践を委ねるという国も存在する。
③ あるべき施行の理念としての「社会的配慮事由」、あるいは「社会に対する責任と貢献」(Social Concept):
「社会に対する責任と貢献」(Social Concept)とは、カジノの施行に際し、その施行がもたらしうる個人と社会に対する否定的な効果を極小化すると共に、施行に関与する主体は社会の関心事に対し社会的な責任を担い、かつ責任ある対応を担うべきとする考えである。スイスでは法制度構築にあたり、この概念を制度の中に取り込み、この概念を実現化する事業者提案と、一旦認証された場合、その実践が事業者の法律上の義務となった。地域社会との共生をうまく実現し乍ら、如何に問題の無い施行を担うかという考え方でもあり、極めて欧州的な発想・考え方である。因みに、米国の各州にはかかる制度的概念は存在しない。
④ 実践のあり方としての「責任ある賭博施行」(Responsible Gambling):
概念自体は他国でも散見されるが、欧州主要国においても近年特に強調され、カジノ施行に際しての一つの重要な経営・運営に係わる基軸概念となっている。カジノの施行や経営に従事する主体にとり、射幸心を煽り、賭博需要を喚起し、結果として収益を上げることをその目的とせず、賭博行為が一般社会に害や影響をもたらしうる事実を施行する主体、経営者並びにその従業員全員が認識し、これを未然にかつ積極的に防ぐ配慮と措置をしながら、商業的賭博施行に係わる経営や運営に従事することをいう。
⑤ マーケッテイング規制とマーケッテイングのあり方:
上述の考え方に基づき、欧州においては一部制度的規制がある国も存在するが、一般論としてはマーケッテイングに関しては、自己抑制的な側面が強い。与信行為も一部の国では認められているがその他の国では認められていない。顧客に対するコンプ(還元サービス)は過半の国において存在するが、米国の如く積極的な考え方が必ずしも採られているわけではなく、抑制的、あるいは限定的に行われているに過ぎない。一般顧客(マス)を対象にした施設が多く、一般顧客に対する取扱いは極めて抑制的でもある。
⑥ 市民社会、地域社会との共生のあり方(施行主体による社会貢献・地域貢献):
カジノ施設を地域社会においてどう位置付けるかに関しては、国により微妙にその施策が異なる。地域社会との共生を制度的に要求する国もあれば、制度としては存在しないが、企業の自主的な活動の一環として地域社会への貢献が行われている国もある。またかかる側面に一切配慮をしない国も存在する。一般的には一定地域において、地域貢献や社会貢献の実践とその資金支援を担うことはカジノ経営にとっての必須の要素になっている。地域住民や地域社会がカジノを理解し、これを支え、その信任を得ることが、カジノの運営と経営の持続可能性をもたらすという考えがその背景にあるからである。