欧州では、如何なる主体が如何なる発意により、如何なる地点でカジノ施行が提案され、かつまた許諾され、実践されているのであろうか。これは、国により、制度や考え方が異なり、多様なアプローチがある。
例えば、下記の如き考え方等が存在する。
① 国が立地選定する:
予め施行数や施行立地の選択を一定の判断基準により国ないしは国の機関が、限定的かつ、一方的に定め、この枠内で施行を実践する手法になる(例:オーストリア、ベルギー、デンマーク等)。地点が固定している前提で、提案者に市場を評価させ、事業者を公募選定することになる。一国の市場が大きくない場合、乱立・競合を避けるためかかる考え方をとることがある。
② 国は選定基準を定め、地域に発意させ、その中から国が立地選定する:
国が施行立地に係わる基本的な判断基準を定め、地方政府が(公募により)事業者候補を選定し、国に申請し、国が最終的な選択(地域と事業者)をする手法になる。一定の制度的な枠組みの中で施行を考慮する限り、施行の発意は地域(地方政府と民間事業者)に委ね、これを許諾するか否かの権限のみを国が保持する(例:フランスは1988年の法改定により、人口50万人以上のリゾート都市・温泉地・海浜リゾートやその他の特定観光目的をもった都市にのみカジノ設置が認められる。但し、1920年の政令により、首都より100Km以内は禁止されている。手順としては、まず関連地域が事業者候補を選定し、条件を詰めた上で、国に申請し、内務大臣の許諾を取得する必要がある)。
③ 立地選定と事業者選定をパッケージで国が判断する:
上記②の前提に立ち、一定の判断基準のみを国が示し、公募により、民間事業者に立地選定の提案をさせるが、提案主体が予め提案の対象となる地域の同意を取得する義務がある手法になる。同意取得後、当該事業者が国に申請し、国が最終的な選択をする(例:スイス)。スイスでは当該州(Canton)、コミューン(Commune)から同意を取得しておくことが提案者の義務となり、施行者と立地選定を提案によりパッケージで決める手法を採用した。この場合、地域の特性を考慮して、施行の在り方を意図的に類型化し、許諾のあり方に差異を設定している(許諾類型をAライセンスとBライセンスに分類し、Aライセンスは許諾ゲームに制限の無いカジノ施設で大都市ないしは国境周辺地区のみ、Bライセンスは許諾ゲームと施設規模に制限のある施設で顧客の需要変動が大きい辺境・観光地、過疎地観光地に割り当てている。都市と観光地では明確に需要構造が異なる為、同一の規制判断基準は適用しないという考え方である)。
④ 立地選定は市場の判断、許諾は地方政府の判断:
施行をするか否かの判断は、あくまでも市場の需要と供給に委ね、この前提で、施行を担う民間事業者に提案させ、地方政府が認可するという手法である(例:2003年までの英国では国の機関は、申請行為を担う民間主体の適格性のみを判断し、これを認証するが、施行を許諾するわけではない。施行許諾は施行を担う地域の司法判事に委ねられ、法規定に基づき、刺激されないで存在する需要がある限り、この需要を満たす施設の許諾が付与される。申請する事業者は判事に対し、当該地域において、かかる需要が存在することを立証することが要件となっていた。この制度は2004年に改定され、現在では、司法判事ではなく、管轄地方政府が主に地域の合意形成という視点から、許諾する権限を保持する仕組みになっている。尚、改定された後も規制機関による適格性認証と、地方政府による設置許可と手続きを二つに分ける考え方は継承されている)。
施行に係わる発意と施行立地の判断は、市場における競争のあり方を大きく変える。例えば上記②、④の場合には同一地域において複数の施設が存在することはありえ、施設間の競合は当然起こりうる。これは、地域における賭博市場の大きさ、需要をどう施行者と関連しうる公的主体が評価するかという問題に繋がってくる。この意味では、一定地域にカジノ施設が集積され、施設間で競合が為されるという競争的市場の構図は欧州では一部の国以外にはあまり存在しない。モナコには施設集積があるが、同一事業者による独占であり、競争はない。またこれが為に、例えば米国で見られるような、カジノを主要要素とし、施設が集積した滞在型(デステイネーション)リゾートは、欧州においてはモナコを含め特定地点以外にはあまり発展しなかったのが現実であった。欧州における主な競争は、地域間、都市間あるいは国同士の間で存在すると判断すべきなのであろう。