欧州におけるゲーミング・カジノの一般的特色として粗収益に対する税率が高いことが指摘されているが、国によっても事情が異なる。一般的に課税行為に関しては、下記諸点を特徴として挙げることができる。
① 課税行為の基本的な考え:
粗収益(カジノ・ハウスの売上)に対する課税が基本的な税種となるが、収益レベルに応じて、段階的累進税率を一定の粗収益範囲毎に累積的に適用するのが通例であり、最高税率のレーヤーは税率が80%となる国も多く、極めて税率は高い。実効税率に換算した場合、これは粗収益に対し、約50~60%となる。
② 粗収益税額の会計上、制度上の取り扱い:
一部の国では(例:フランス)、ゲーミング粗収益は、財務諸表上、企業活動の規模を示すものとして別途参考注記されるのみで、売上は、ゲーミング粗収益課税後の純ゲーム収益としている。フランスでは、ゲーミング課税相当分は、その収益が認知された段階で、例えそれが国により徴収されていなくとも国の所有物(即ち公金)となることが法律上規定されている。よって、課税後でないと売上を確定できないという事情になる。一方、英国では事情は異なり、ゲーミング粗収益は事業者にとっての売上として会計上認知され、ここから一定率の粗収益課税が徴収されるという考え方をとる。欧州においても後者の方がより一般的な考えになる。
③ 優先的事業者控除枠・追加的事業者控除枠の考え:
税率が高い国では、通常とは全く逆に、ゲーミング粗収益課税前の粗収益から、優先的にまず事業者の一定取り分を控除することがある(例:フランス、ドイツ)。まず、事業者取り分を優先せしめ、残りの全てを多様な課税対象にする。勿論最終的に残余があれば、事業者取り分となるが、収益を増やすインセンテイブは、事業者には起こりにくい。この場合、事業者の運営費用、減価償却、借入金返済、収益等を全てこの優先取り分で賄うことができれば、施行は税率とは関係無く安定することになる(フランスでは当初この事業者優先控除分は粗収益の25%であった)。
④ 地域貢献・社会貢献等に伴う事業者追加控除の考え:
一部の国においては固定した事業者控除分に加え、例えば地域貢献や一定の地域投資等の条件を満たす事により、追加的な事業者控除分を認めたり(フランス)、あるいは地域の観光特性により季節的に観光客・旅客が偏り、一定の収益レベル確保が難しい場合等にかかる追加的事業者控除分を認めたりする(スイス)事もなされている。
⑤ 事業者非課税となる例外的措置:
全ての国においてゲーミング粗収益課税とは売り上げに対する一種の特別課税として扱われている。よって、通常の場合、施行を担う事業者は、この他に、資産税、企業所得税等の一般法に基づく税を負担しなければならない。一方、ゲーミング関連課税が高率であるがために、企業所得税並びにその他の諸課税が免除になるという例外的な国・地域もある。(ドイツ、バーデン・ユッテンブルグ州)。
⑥ 地方政府による独自課税権:
国が課す粗収益課税とは別に、施行が為される地域において地方政府が独自に一定の課税権を行使できるとする国も多い(例:フランス、オーストリア、スイス等)。勿論この場合、国の課税権との兼ね合いで、一定上限内で国との課税行為との調整が図られることが通例となる。
⑦ 顧客に対する課税のあり方:
印紙税としてテーブル・ゲーム区域入場税ないしは、施設入場に際して、利用者に対し入場料を課す国も存在する(例:フランス、スイス、モナコ)。また顧客による一定額以上の賭け勝金に対して、源泉徴収義務をカジノ施行者に課している国もある。
⑧ 国と地方政府における税率の配分:
多くの国では税収を国、県ないしは州、その下にある基礎的自治体(コミューン等)と分担する。配分比率は国によっても異なる。配分の手法は1)一旦国が徴収し、これを一定比率に基づき国が配布する、2)一定の枠内において地方による課税自主権を認め、国との配分調整は過度の課税にならないように調整する、3)あるいは国と地方政府が一定税率に基づき独自に課税するという手法が存在し、これらを混在させる考えもある。
⑨ 税収の目的:
歴史的事実としてカジノの施行や制度が構成されてきた国においては、国、地方政府に拘らず、税収は一般財源として繰り入れている国が多い。但し、新たに制度を創出した国では、目的税化している(例:スイスでは、少子高齢化に伴う社会保障基金財源不足のため、全額年金基金に充当することを法律の前提としている)。