ドイツは連邦制で、カジノを含む許諾賭博の制度・規制等に関しては、連邦政府は関与せず、州政府に実質的に全ての規制・監視に関する管轄権限が委ねられており、国としての詳細な規制の枠組みは存在しない。賭博行為に関する課税権も一部を除き、連邦政府は放棄しており、原則州税となる。よって、制度は、州単位の制度的枠組みになり、多種多様なあり方が混在しているのが実態となるが、①必ずしも精緻な法的枠組みとはいえないこと、②賭博行為自体に寛容な国民性も寄与し、規制や制度としては必ずしも厳格ではないことという事情がある。州単位でみても、カジノの監視・規制の為に特別の独立した規制機関を設けている州は少なく、全て州政府の内務省ないしは大蔵省が直接監督に関与し、問題があれば地域の警察が随時対処するという体制になる。ドイツ連邦には16の州が存在するが、カジノに関する制度並びに課税のあり方は全くバラバラで2011年時点では、73施設、総粗収益で6億4700万€の規模でしかない(出所:欧州カジノ協会。2008年以降2010年に至る迄州際間賭博協定の影響や、インターネット・ゲームによる市場浸食、カジノ場における禁煙措置等による顧客離れ等により市場が縮小化傾向にあったが、2011年レベルでは成長軌道に戻りつつある)。
このドイツのゲーミング・カジノ制度には、下記特色がある。
① 連邦制、分権型カジノ施行:
賭博規制は、公序良俗の維持・犯罪防止を含めて国では無く、全て州政府の管轄事項とされる。よって、国としての統一的な規制、監視、管理の仕組みはなく、税の徴収権限も原則州政府単位である。また多くの州では、必ずしも設置数を制限する施策をとっていない。この意味では制度的にも、賭博行為に対しては極めてリベラルなスタンスを取っていることになる。
② 税収増と観光客誘致が導入の理由:
カジノ導入の経緯は①専らその財政的効果(税収増)であり、②かつ一部州では伝統的に観光政策を重視する考えがあり、観光客誘致のための手段として政策的に考慮されてきた(例:バイエルン州)。一部州における実践と成功は、段階的に他州の追随を招き、ドミノ効果をもたらし、現状全ての州にカジノ施設が存在する。単一事業主体が同一州の全てのカジノ施設の運営を担っている州や、一つの州の中でも、複数施設を束ねて経営し、地域独占が成立している州も多い。同一主体が一定地域のカジノを包括的に運営することにより、規模の経済や、費用縮減を図り、事業性を確保することに資することになっているという場合もある(もっともドイツの一部州では既にカジノは需要を満たし、飽和状態にあるのではないかとする議論も存在する)。
③ 事業主体の特殊性・多様性:
歴史的に地方政府が自らないしはその主要部を出資する公企業主導によりカジノ施行が形成されたという経緯と現実がある。また1950年代に民間事業者によるスキャンダル(汚職、腐敗、脱税)が発生し、これを契機として各州において一部民間主体が担っていた事業としてのカジノを州政府自身がテークオーバーし、直営ないしは公企業として運営するという形態が一部に根付いたという経緯もある。但し、趨勢としては運営を民間に委ねる方向性に再度戻りつつある。この場合、事業者を公募し、審査・評価した後に、一定期間のコンセッション(フランチャイズ)を当該事業者に付与して事業を担わせる形態がとられている。州内務省指導によるコントロールと高い税率が特徴的で、結果、監視も管理も極めて緩い制度となっている。
④ 主体は中小規模施設:
上記事情により、規模的にも中小レベルの施設が多い。また、顧客ベースも明らかに地域住民を主体にした施設が多い(因みに、ドイツのカジノ施設ないしは運営会社いずれも英語ないしは他の欧州言語によるHPを立ち上げている施設はほんの僅かでしかない。顧客の主体はあくまでもドイツ語圏ということなのであろう)。
⑤ いびつな市場構造:
カジノ施設全体で約8,000台のスロットがあるが、これ以外にゲーミング・ホール、アーケードやバー等に設置されているスロット・マシーンは23万5000台に達し、これらは例外的に国による規制の対象になるが、賭博市場全体の売上の中では、圧倒的な比率を占める。これに対し、中小規模、中途半端なカジノ施設は顧客のニーズを満たしておらず、様々な抑制施策により、顧客はカジノ施設から離れつつあるという統計データもある。
ドイツのカジノは明確にローカルの市場をベースに発展してきたと判断され、一部の著名な高級リゾート地域(例:バーデン・バーデン)を除けば、国際的な広がりはない。また制度も、税率も州単位で異なり、統一性は無い。公企業が経営主体となることが多いという事情もあり、この中から積極的に欧州市場全域へと進出する意欲や活力のある事業体は生まれてきていない。市場の性格と制約要因が、事業者の発展を妨げてきたともいえる。また現状、様々な競争要因や制約要因を抱えており、今後の発展の在り方には不透明な側面もある。