フランスでも賭博行為は近世以降、禁止と許諾の間を揺れ動いてきたという歴史的経緯がある。現代フランスで賭博行為が制度として認められたのは、1891年に競馬賭博法、1907年にカジノ法、1933年にロッテリー法が制定されたことに依る。一般的に、賭博行為は、賭博種毎に様々な公的主体が関与する形で、公的管理のもとで制限的に施行がなされている。
この内、カジノは民設民営が基本になり、民間事業者による申請に基づき、国がコンセッションを付与するという形式をとる。また1934年11月6日付政令に基づき内務大臣の諮問機関となる高等ゲーミング委員会(Commission Superieure des Jeux)が全てのコンセッションの申請・更新等に対し、大臣に対し、意見を述べる制度となった。同委員会は、(行政系統の最高裁判所となる)国務院(Conseil d’Etat)の構成員が議長を務め、当初上院議員、下院議員、市長、全国観光地コミューン市長協会の長の5名より構成され、その後関係各省の高官も参加する合議体の組織となった。もっとも、その後様々な改定を経て、現在に至るゲーミング・カジノ法制の骨格は、1959年政令第59-1489号(保養地、温泉地におけるカジノ・ゲームに関する政令)に基づくものとなっており、内務省・財務省が同じ権限、権利を保持する共管の形で施行がなされている。尚、この高等ゲーミング委員会は、2009年政令334号(3月28日)で廃止され、5年間の時限をもった「フランスにおけるゲーム運営許可の申請・更新を検証する委員会」(Comission chargé d’examiner les Demandes d’Autorisation et de Renouvellement des Jeux)に代替されている。透明性が無いという批判に対する対応で、委員数を20名から12名に縮小、関連する省庁や公的機関等の合議体であることに変わりはないが、その構成省庁を現実に合わせて変更している。2014年以降この組織を修正して継続するか、新たな組織を構築するかは現状未定である。
競馬に関しては、内務省、財務省の他に農務省が関与する。1997年5月5日付政令(競馬並びにPMU社に関する政令)により、競馬並びにパリ・ミュチュエル賭博の管理と監視に関しては、農務省森林地方総局、内務省競馬関連警察部局、財務省高等主計官が共同してこれを管理している。この分野では運営事業者は国が設置した特殊法人とでもいうべきPMU社(Paris Mutuel Urbain)が独占権を保持して場外馬券の売買を管理し、農務省、財務省が競馬競技や場内馬券売買等の管理を担っている。PMU社の役員会は双方の省からの代表を含み、社長任命権は政府にある。
尚、カジノ及び競馬は、内務省内部の一般情報総局にある競馬・カジノ局(約70名)が規制し、監視する(地方政府の役人100人のネットワークを活用し、カジノや競馬場に常駐し、監視する)。規則・制度を所管するとともに、様々な認可・許可権限を保持し、行政的手順を監視し、定期的に財務・技術面で当該運営者の検査を実行する。尚2008年の行政組織再編によりこの部は同じ内務省の司法警察総局に帰属することで再編された。
一方、ロッテリー並びにスポーツ・ブッキングは財務省がこれを所管し、政府が最大株主となる企業であるFDG社(Francaise des Jeux)が独占権を保持して、施行している。役員12名のうち9名が行政官である。社長は内閣の推奨により共和国大統領による任命となる。公益の為の企業でもあり、国による財政・金融面での管理の対象となるとともに、定期的に会計検査委員並びに財政監察官による検査・監査の対象となる。このスポーツ・ブッキングに関するFDG社による独占は欧州委員会による限定意見書等の圧力により、崩れることになり、様々な議論を経て、2010年に「オンラインによる金銭ゲーム、僥倖のゲーム業を認め、競争に付す法律」(2010年5月12付法律第2010-476号)が制定され、2011年以降、インターネットを介したスポーツ・ブッキングとインターネット・ポーカーが制度として認知された。このオンライン賭博は、独立した国の規制機関として競りつつされた「オンライン・ゲーム規制機構」ARJEL(Autorité de Regulation des jeux en Ligne, Regulatory Authority for Online Games)が規制、認可、監視を担っている。
上記の他に、2006年6月27日に財務省の下に、「ゲーミング政策並びに責任ある賭博施行実施のための諮問委員会」(COJER, Comite onsultative pour la mise en oeuvre de la politique d’encadrement des jeux et du jeu responsible) という新たなゲーミング部門の国の機関が設けられた。7人の委員で構成され、厚生省、内務省、スポーツ省、財務省から4名、3名は専門家からなる。同委員会はゲームに関する政策プログラムに関する意見や、責任ある賭博施行、FDJ社の年次経営行動計画に関する意見等を求められる諮問機関になる。この様に、フランスにおける賭博法制はかなり複雑だが、その特色は下記にある。
①基本は歴史的経緯もあり国(カジノは内務省、競馬は財務省と農務省・内務省、ロッテリーは財務省)による集中管理方式で規制と管理を行うという考えに立脚する。中央集権的色彩が強く、監視には公安当局が深く関与する。
②運営の在り方は賭博種毎に異なり、ロッテリー、競馬は国が管理する国策会社に独占権を委ね、施行する。一方カジノは法律上、一定の人口規模がある温泉地や観光地などに限定され、地方政府と民間事業者の申請により、国が民間事業者に認可を与え、運営を認めている。またオンライン賭博は、スポーツ・ブッキング、オンライン・ポーカー、オンライン競馬に限り、2011年以降民間事業者の申請により、国が審査し、ライセンスを付与し、運営を認めている。
③ 欧州の全般的方向性は、賭博関連規制主体の集約化、統合化、制度の簡素化にあるが、フランスはいまだ古い体制、制度を基本とし、大きな改革がなされているわけではない。