フランスはその国民性としても伝統的に賭博志向が強く、欧州の中では最大の賭博消費国でもある。一方、賭博行為がもたらしうる賭博依存症等の政策的対応に関しては、(他の欧州諸国と比較すると)政府として必ずしも積極的な施策や行動がなされているわけではない。かつこのための明確な制度規定や財源措置も現状は存在しない。フランスでは、本来賭博行為は成人が個人責任の下でなすべき余暇としての遊びの一つという考えが強いため、政府による関与の側面は基本的には弱い。一方、賭博依存症患者とは、単なる過剰な賭け事にはまるのみならず、自己を管理できなくなる弱者であるとの認識から、賭博行為の施行を担う主体がかかる事象を防止する様々な措置を考え、実践すべきとされ、賭博の運営を担う施行者による自主的な対応・措置を促す様々な施策がその基本になっている(考えとしては賭博の健全な余暇的側面は推進するが、その実践から生じる否定的側面や過剰な賭博行為は防止し、弱者を保護し、問題を抱えた依存症患者等を支援するための財政負担を利害関係者が担うことを推奨することになる)。
政府としての対応施策等に関しては下記等がある。
①フランスには二つのカジノ事業者団体(Casino de France, Casinos Modernes de France)があるが、政府はこれら二つの事業者団体と「責任ある賭博に関する協定書」を締結、事業者による自主的な責任ある賭博に対する対応を促す措置をとった。これに基づき、両事業者団体は、「賭博の濫用リスクを防止するための憲章」を策定し、各々の参加企業に対し、事業者自身が賭博依存症は起こるという社会的現象を無視しないこと、顧客に対し過剰な賭け事がもたらすリスクに関する適切な情報を提供すること、施行に関与する事業者がこの問題に関する教育訓練を受け、顧客にアドバイスをし、必要な場合、賭博行為をやめさせる等問題と責任を自覚すべきことなどを取り決めている。
②政府は、2006年2月17日付政令第2006-174号(ロッテリー・ゲームの提供及び運営に関する政令)に基づき、「ゲーミング政策並びに責任ある賭博行為実施のための諮問委員会」を設けた。同機関はロッテリー、スポーツ・ブッキング等の施行を担う国策会社でもあるFDJ社の運営方針(特に、責任ある賭博施行に関する行動計画、関係者が遵守すべき倫理憲章策定とその実践)に関し、財務大臣を補佐する審議会であると共に、より一般的な賭博種に関しても賭博依存症の現象を防止すると共に、16歳以下の未成年者の興味を喚起せしめない配慮等につき、政府としての全体施策策定に関与することになる役割期待が制度として想定されている。
上記以外は、当面、賭博種毎に、関連しうる施行に関与する事業者による自助努力が対応の基本になるが、政府が直接その施行に関与する特殊法人であるFDJ社並びに PMU社に関しては、「責任ある賭博施行」の施策を推奨し、実践する様々な試みが実践されている。
例えば、下記等になる。
✔ 「倫理憲章」、「責任あるコミュニケーションに関する憲章」等の内部規定を設け、販売拠点における協力企業や責任者をも巻き込んだ職員教育プログラムの実践、責任ある賭博の実践運動。
✔顧客が自己判断で、賭け事予算を管理できる仕組みの導入(銀行カードからの一定時間内引き落としの上限設定、超過の場合の銀行勘定閉鎖措置等)。
✔顧客に対し、賭博行為のリスクを周知徹底させる情報キャンペーンの実施。
✔依存症患者自助組織であるSOS Joueursに対する財政支援、ナント大学総合病院のイニシアチブであるCRJE(Center de Référence sur le Jeu Excessif,「過剰賭博に関する調査センター」、調査研究、現場職員教育・研修、依存症問題に対する情報や資源の集約等を担う大学の付属機関となる)、依存症対応専門治療部局を保持するLouis-Mourier de Colobes総合病院等に対する財政支援の実施。
✔施行者と様々な利害関係者や市民団体、消費者団体、大学・医療関係者等との定期的、組織的な意見交換の実施。
上記でみたとおり、この「責任ある賭博」を実践する考え方の基本は、北米、豪州、他の欧州諸国で実践されている考えと基本的には同じだが、諸外国では賭博依存症の為の専門調査機関等が設立され、財源等も国からの手厚い支援や様々な措置が図られているのと比較すると、フランスの現状は不十分と言わざるを得ない体制でしかない。問題は認識されてはいるが、バラバラの制度として構築されている既存のシステムの中で共通的な基盤やプラットフォームを形成できにくいこと、また財政的支援が必ずしも十分ではないことがその背景にある。