制度を実践するに際し、2001年10月、スイス連邦議会は第一フェーズとして21のカジノコンセッションを付与すること(Aライセンスは7、Bライセンスは13)を決定、第二フェーズでBライセンス1 ヶ所、スイス山岳部のみ1ヶ所を追加許諾(2003年4月9日)する方針を明示した。内Aライセンスは、都市、人口集積地区、国境周辺地区の事業に、Bライセンスは、伝統的な観光地を主体として付与されることになり、地点と事業者を同時に選定する手法がとられた。2003年末には21施設が運営段階に到ったが、Bライセンス類型であったアローザ(Casino d’Arosa)は運営開始1年を経ずして財政危機に陥り閉鎖。ツエルマット(Casino de Zermatt)も2003年9月から閉鎖になり、2004年6月にコンセッションを返上している。Bライセンスの運営は全体としてかなり厳しいことが明確になり、追加的にスイス山岳部地区に認められた事業者(Engelberg-Titlis SA)はライセンス取得辞退を決定。カジノ管理委員会もこれを認め、施設運営中のカジノ総数は19施設(Aライセンスは7、Bライセンスは12)となった。その後これら施設は順調に発展し、2012年にA,B各々1ヶ所が追加的に認められ、2012年末より21施設が開業している。
Aライセンス・カジノとはもともと大消費地(大都市)近辺、ないしは国境近辺に設置されるカジノ施設をいい、比較的大型施設で、来訪客のみならず都市住民をも含む一定の市場規模を確保できる施設として想定され、カジノ施設のあり方もできうる限り規制の無い考え方で限定数のみが認められることになったものである。一方Bライセンス・カジノとは、観光地においてのみ、より小規模で、射幸心を煽らないレベルの限定的なカジノ施設を許諾するという考え方で、必ずしも汎用的なカジノとはいえないものでもあった。規模が小さいこと、かつ観光地次第では季節毎の観光客数の変動が大きいこと、運営面における制限が多いこと等が本来的に事業経営上の課題であったともいえる。これらBライセンス施設に対しては、財政難に応じて一定の規制緩和措置や支援措置が制定され、現状では相対的に経営が安定するレベルに至っている。潜在的な市場規模や規制のあり方等より、当初からスイスでは米国的な大型遊興施設は志向されず、中小規模施設が主体となり、税率もかなり高い。事業に参画した主体は、スイスとフランス、オーストリア、ドイツ等の企業連合が殆ど全てを占める。
税は、事業者による勝ち分となる総粗収益に対し、費用控除前に課税する。目的税として構成され、Aライセンスに伴う税収は全て連邦政府のAVS(年金)補償基金(即ち、国民年金の原資)に充当する。Bライセンスに伴う税収は、総粗収益課税の40%までは制度として州政府が徴収可能で、残りをAVS(年金)補償基金に充当する。税率は実効税率として50~60%程度になり、累進課税(粗収益に応じて40%から80%に税率が設定されている)を前提とし、かなり高率でもある。この場合、平均的な施設規模・投資額を前提にすると、Aライセンス・カジノの場合、一定の事業性を確保するためには、最低年4,000万SFrの収益レベルが必要で、Bライセンス・カジノの場合には年1,000万SFr程度の粗収益が確保される必要がある。
税率は、Aライセンス・カジノの場合粗収益2,000万SFrまでは基本税率は40%で賦課され、その後100万SFr増える毎に0.5%増え、最高税率が80%まで逓増的に税率が上がる。Bライセンス・カジノの場合には、1,000万SFrまで基本税率40%であり、その後100万SFrの総粗収益追加毎に1%税率が逓増する。尚、法律により、一定の条件が満たされる場合、カジノ管理委員会の判断により、特に山岳地帯、顧客数の季節変動が激しい観光地に関しては1/3に税率を低減できると共に、カジノ施設が公共の利益に資する事業へ投資したり、地域の一般的公益を向上したりする事業に投資する場合、一定の税の減額措置を考慮することができる。一部B類型カジノは、規模が小さく、顧客の季節変動が大きいため、著名な観光地であっても、経営的には失敗したが、その他の施設はほぼ成功しており、初年度以降、納税貢献度も高い。
2011年レベルで営業していた19施設の総粗収益は8億2,400万SFr(前年比5%減)に達し、総税収は、4億1,900万SFrとなり、2,100人の雇用がある。総粗収益は2007年をピーク(10億2000万SFr)に減少しているが、これは①2008年以降の場内禁煙措置、②スイスフラン高(1/3の売り上げは外国人旅客でユーロと比較してSFr高となり売り上げが減少すると、全体収入は減ってしまう)、③周辺国との競争の激化等が起因している。
スイスは、欧州の中で零から精緻な制度を作り上げ、カジノ施設を実現し、成功させた典型的な事例になる。その注目すべき側面は、
① 地域の観光特性に合わせ、施設類型や制度の仕組みを差別的に変えるという考え方は他国には見られない制度になること、
② 市場全体の需要と供給をうまく管理しながら、施設設置をバランスよく考えた成功事例でもあり、管理と監視レベルは簡素化しているが、かなり厳格な内容となり、その運営に成功していること、
等であろう。