オランダでは18世紀以降ロッテリー賭博がなされていたという歴史があるが、現代的な賭博法制度が整備されたのは第二次世界大戦後になる。1964年に制定された「改定ゲーミング法」の中で、従来から存在したロッテリーや競馬賭博を含めたロッテリー、慈善ロッテリー、スポーツ・ベッテイング(サッカー・プ-ル)、競馬に関する賭博行為が認められ、1974年の再改定により、ロト、及びカジノ・ゲームが認められ、現代に至っている。制度としては許諾される対象以外の賭博行為は禁止とし、かつ自由な競争ではなく、国全体を一つの市場として公的性格をも保持した主体に独占的なライセンスを付与し、その運営を委ねてきたことが特徴でもあった。様々な賭博行為は、2001年までは複数の省庁に分かれて管理されていた(例えば競馬は農業省、カジノは司法省等)。2001年以降は、全て司法省が管理監督を一元化する仕組みに組織改定がなされた。よって、様々な賭博行為を担う国の独占主体に対するライセンスは、司法省により交付され、司法省がこれを監督していた。
カジノ・ゲーミングに関しては1975年にHolland Casino社(正式にはFoundation for the Operation of Casino Games in Netherland)が司法省より独占権を得て、現在に至るまで14のカジノ施設を建設・運営している(役員は財務省の任命、予算・決算は国の認証も必要で、運営は民間的だが、実態は極めて公的管理の強い性格の財団ないしは、基金・組合的な存在で、単純な私企業ではない。オランダではこれをStichtingと呼称するが一種の財団ないしは社団的な性格の組織を言う)。同様に国ベースでのロッテリーも、司法省よりSENS社(Foundation for the Exploitation of the Netherlands State Lottery)という類似的な財団が独占権を得て運営している。尚、1966年のゲーミング法改定以降、司法大臣に対する諮問機関としてオランダ・ゲーミング管理委員会(Netherlands Gaming Control Board, College van toezicht op de kansspelen)が設立された。この委員会は、大臣の指名により、7名の委員で構成され、4年の任期、2回更新が可能で、その目的は国のゲーミングの独占行為を監視することにあり、これら独占主体に対するライセンスの付与、変更、剥奪に関し、司法大臣に答申し、関与主体の定款、規則・細則などの認可等がその所掌範囲になる。但し、この委員会は、強制力を持たず、かつ懲罰権や罰金を賦課する権限もなかった。
2010年の政権交代に伴い、賭博政策に関する方針転換が企図され、2011年12月20日に「改正ベッテイング及びゲーミング法」(Dutch Betting & Gaming Act DBFA)が議会で可決され、2012年以降、規制緩和・自由化が図られることになり、上記の仕組みは抜本的に改革されることになった(これには欧州裁判所によるBetfair vs デンマーク司法省の係争~事案第258/08号~において、オランダにおける独占的なライセンス許諾制度はEU法違反という判決も影響しているが、時代に合わせて賭博制度の内容をも変えるという政策転換になる)。
2012年に施行された制度改正の要点は下記にある。
① 諮問機関であった従来のオランダ・ゲーミング管理委員会は廃止され、2012年4月1日より新たな賭博関連の統合的な規制者として独立した政府の機関である「オランダ・ゲーミング機構」(Dutch Gaming Authority)が設立された。職員は35名+従来市中にあった機械ゲームの監視を担っていたVerispect(オランダ度量衡研究所の子会社)から13名を移籍させている。
② 司法省は賭博政策に特化し、規則指定、ライセンス付与、監視・監督に伴う諸権限をオランダ・ゲーミング機構に委ね、従来司法省が別の枠組みで管理・監視していた民間の群小の機械賭博運営事業者をも統一的に管理・監視する体制がとられることになった。
③ 従前の委員会は諮問機関にすぎなかったが、新たな機構は法の執行ができる権限を有し、違法行為等の場合の行政罰賦課権、行政命令権(業務停止・ライセンスはく奪等の命令権)、罰金賦課権が付与されることになった。但し、犯罪行為の摘発は、公共検察局(Public Prosecution Service)が担うことになり、ゲーミング機構と公共検察局との間で協力契約が締結され、お互いの所掌と責任分担が取り決められている。
④ 現状オランダではオンライン賭博は禁止のままだが、政府は、2013年以降に、オンラインによる遠隔ゲーミングに関するライセンス制度を設ける予定で、その準備を進めており、現実に存在するオンライン事業者を規制事実として認める動きが始まりつつある。一方、新政府は2015年までに現在の賭博制度の独占体制を取りやめ、競争市場化すること、並びにHolland Casino社の民営化を図ることを公言している。全ての賭博事業を統一した一貫性のあるライセンス制度のもとで実施し、透明性と非差別性を貫徹するという考え方になる(但し、議論はまだ進行中であり、今後如何なる予定で実施されるかは流動的である)。