では、アジア・オセアニアのカジノ・エンターテイメント市場を支えている主要顧客層はどのような顧客で、この市場は誰が支えているのであろうか。如何なる国においても、エンターテイメントや遊びあるいは賭博行為への支出や消費は、国民の生活力や経済力が豊かになり、生活のゆとりがあり、初めて顧客が生まれ、市場が形成される。かつまた、カジノ・エンターテイメントの提供を認める制度や枠組みがあり、施設がそこに無ければ如何なる国民もこれにアクセスできない。また、アジア諸国では、一国の政策により、かかる余暇の在り方を禁止したり、規制してきたりしたのが現実でもあった。この様な背景より、カジノ・エンターテイメントとは、まず限られた国で段階的に市場が構成され、拡大していったというのが実態になる。一国の国力や経済力が高まり、余暇市場が発展し、国民のニーズが高まると共に、カジノ・エンターテイメントも段階的に一部の国で認知され、制度がつくられ、導入されてきたという歴史がある。よって、必ずしも全ての国、全ての国民に対し、提供されている仕組みではない。一方、国の経済力が増し、国民に経済的余裕が生まれる場合、かかるエンターテイメントや余暇への需要は増大し、為政者の意思に反し、合法・非合法に拘わらず、国民は国内外においてゲームに参加し、その支出は当然増大することになる。20世紀後半から21世紀初頭にかけてのアジア諸国の経済的発展は、これら諸国民による、エンターテイメント・カジノへの需要増をもたらし、豊かになった中間所得層を中心とした顧客が市場を拡大していく強力なドライブになった。国力は人口の多さや、当該国の経済力に比例し、大きくなる。この様なアジアの成長セグメントが、エンターテイメントの世界にも大きな需要を生み出し、市場全体が成長している。
かかるアジア・オセアニアのゲーミング市場には、下記特徴がある。
✔ 急激な市場の拡大:
巨大な人口集積と諸国民の富裕層化は、遊びやエンターテイメントの巨大な市場を成長させており、市場のパイは拡大しつつある(アジア自体が世界のゲーミング市場の中で最大の成長セグメントとなっている)。また、東南アジアに存在する華僑や中国本土における富裕層の存在も極めて大きく、これがアジアの巨大市場を支えている側面もある。今やオセアニアでも米国ラスベガスでも、トップレーヤーたるVIPの過半は中国人・あるいは華僑でもあり、中国系VIPの動向と参加が、個別市場の優劣を決めている。2009年リーマン・ショック後の経済不況に伴い、米国賭博市場は20年来の売上ダウンとなったが、一方、マカオは2009年若干成長が鈍化したとはいえ、同年後半には回復し、2010年以降は更なる成長を遂げつつある。中間層や富裕層が数多く存在する巨大な市場の存在が、継続的な成長をドライブしているのであろう。
✔ セグメント化する顧客市場:
市場は、一般顧客市場(マス・マーケット)と優良顧客市場(VIPマーケット)に分かれ、尚かつ、国内顧客市場と海外来訪客市場に分かれる。如何なる顧客層に焦点を絞り、制度が設計され、かつ個別企業のマーケッテイングがなされるか次第では、市場の在り方は大きく異なってくる。国内顧客に依存する市場や、主要な顧客層として安定的な国内顧客を持っている市場は、不況等に拘わらず、相対的に安定的な市場となる。例えばオセアニアにおけるカジノ施設は、税制優遇により一定の外国人旅客や外国人VIP誘致の考え方があるが、基本は安定した国内の顧客層が市場を支えている。マカオは、その顧客の80%が中国、台湾、香港等の中華圏からの顧客になり、収益の重要部を大陸本土のVIP顧客に依存する構図の市場になっている。これに対し、シンガポールは2010年に二つの施設をオープンしたが、国内人口も国内需要も狭隘である以上、基本はできる限り(VIPを含む)外国人顧客を主要な顧客層として捉える制度や施設の在り方を前提とした。この場合、来訪顧客を不断に集客することが成功の秘訣ともなるが、2010年実際の開業後は、外国人顧客となる東南アジア華僑や中国の富裕層を集客することに成功したと共に、一般のマス顧客をも十分惹き付ける施設となった。顧客総数ではシンガポール人が多いが、収益の貢献度は外国人VIPの方が大きいという構図でもあり、東南アジア・中国における潜在的市場規模が想定外に大きいことが明らかになったといえる。
アジアは既に競争市場となっており、一国にとり、如何に効果的に集客戦略を図り、来訪観光客を増やすかは、重要な政策的配慮事項になる。各国の制度の在り方により、これは大きく異なると共に、制度に伴い民間事業者がとるマーケッテイング戦略も大きく異なってくる。当該国の法制度や実際の仕組みと市場のあり方を反映して、個別の施設や企業による戦略が存在する。例えば、明示的に外国人VIPを誘致することが施策の基本である場合、VIP顧客に係わるカジノの売上に対する粗収益課税率を一般顧客からの収益に対する税率より安くする等の施策が取られる(豪州、ニュージーランド、シンガポール等)。これは、施行者に来訪外国人VIPを増やそうとする強力なインセンテイブが働くことを期待していることになる。この結果、顧客に対するサービスの質も大きく変わってしまう。これは逆にVIP顧客自身も市場を選択しうることを意味している。