豪州におけるゲーミング・カジノの規制のあり方は、1970年代から1990年代までは、カジノの規制・監視・監督を担う専任の行政委員会や組織を設け、これに警察等の既存の公安当局が法の執行に関与するという手法が採用された。州毎に微妙に組織や組織管理の在り方が異なり、独立的な規制機関を設けたり(ニュー・サウス・ウエルス州)、規制機関と行政機構が一部重複する仕組みであったり(ビクトリア州)、州政府の一部行政機構自身が規制を担う(クイーンズランド州)等様々な規制モデルの考え方・手法がバラバラに試みられてきたことが現実である。カジノは賭博種の一つにすぎず、どの州も、異なった賭博種が、異なった制度とこれに伴う異なった政府組織や政府機関により規制される複雑な仕組みであったことは間違いない。
1999年に連邦政府の政策研究委託を受け、賭博産業のあり方を検証したシンクタンクである生産性委員会(Productivity Commission)は、既存の各州のこれら賭博規制モデルの在り方を評価し、あるべき行政機構や制度のあり方を提言した。同委員会が提唱したあるべき姿とは、①政策立案・発展・判断の役割と、②実際の施行の管理・規制を担う役割、③法や規制の遵守を監視し、適切な施行が行われることを確保する役割という三つ役割を明確に峻別することにあった。政策の立案や判断は所轄大臣と省庁の役割となり、管理・規制は政府から独立した規制主体がこれを担うこと、また法遵守の仕組みは別途監視の為の公安組織がこれを担い規制主体との連携を図ることが好ましいという考え方でもある。現実の組織は、過去の経緯から必ずしも役割と機能が明確に分けられる仕組みにはなっていないわけで、これを明確にすることで、透明性や廉潔性の高い規制モデルを構築することができるとした。また上記生産性委員会は施行収益から一定の財源を確保し、この財源を地域における社会政策の実施に使うために別途独立的な組織を設けることをもあるべき制度として主張している。
その後の各州の制度のありかたは、概ね上記生産性委員会の提言を受け入れ、様々な制度改革が行われた。また、連邦政府主導により各州の賭博関連所管大臣を含む(拘束力のない)政策調整のメカニズムが国レベルで胎動し、規範の標準化が推進されることになった。これらアプローチの結果、2011~2012年にかけて、主要州では制度の改定が実践され、各州とも、微妙に異なる側面があるとはいえ、類似的な規制モデルが成立しつつある。その共通的な側面は下記にある。
① 複数の社会的規制分野の統合化:
従来複数の省庁に分かれていた社会的規制の分野、即ち、カジノやクラブやバー・ホテル等に存在する電子式ゲーム機械、あるいはアルコール飲料販売認可等の規制、認可、免許,監視などを包括的に一つの規制組織に統合することが殆どの州で実現している(ニューサウスウエルス州の「独立アルコール飲料ゲーミング管理機構」、ビクトリア州の「ビクトリア賭博・アルコール飲料規制委員会」、クイーンズランド州の「アルコール飲料・ゲーミング規制局」等になる)。この結果、一つの規制組織が複数の法律を所管することになった。また、賭博関連法制に関しては、従来バラバラの制度であったものが統一され、政策の一貫性・整合性が図られるようになったといえる。
② 組織の簡素化・合理化:
バラバラの管理組織ではなく、複数の賭博分野を横断的に、規制、法順守、ライセンス等の機能で統一的に管理することにより、組織が簡素化・合理化されることになった。勿論カジノは他の賭博種やアルコール飲料と比較すると、ライセンス付与や監視等の側面に関しては、特異な業務(厳格な背面調査や施行の監視業務)をも含むことになる。
③ 規制機関と法の執行を担う実務部隊の役割と機能の峻別:
管理機構や規制委員会は、あくまでも規制を担い、ライセンスを付与し、行政罰や罰金刑を課す判断主体として構成されている。実務となる申請受理・審査・背面調査や、施行の監視及び違法行為等の摘発等の実務は、管理機構や規制委員会を補佐する役目と共に、行政組織内の一部門がこれを担ったり、管理機構自体が自らの職員を抱え、担ったりする事例が多い。尚、法の執行等に関しては既存の州警察等と連携することが前提となる。
④ 依存症問題対処のための独立した専任組織の創設:
全ての州で同一ではないが、依存症問題に関する財源を管理する組織を設けたり、何等かの専任組織を設けたりすることが一般的である。ビクトリア州はこれを更に進めて、従来政府内や一部規制機関が担ってきた依存症問題を包括的に対処するために、2012年に州政府から独立した財団を設立し(「ビクトリア州責任ある賭博財団」(Victoria Responsible Gambling Foundation, VRGF)依存症問題賦課金を財源として、注入し、包括的な施策の実践を図ろうとしている(当初州政府によるA$1500万の投資により設立し、依存症防止・治療に関する豪州では最初の独立的な財団として組成された)。