ニュージーランドは人口わずか440万人の小国である。政治的・経済的にはオーストラリアに大きな影響を受けている要素があり、様々な企業がオーストラリア・ニュージーランドを一つの市場と判断している。ゲーミング賭博としてのカジノ制度の考え方とその実践にも類似的な側面がある。これら両国の間で、多くの共通的な要素があるのだが、一部には異なった要素もある。例えば、オーストラリアは連邦制で賭博行為の管轄権は連邦ではなく州政府にある。一方、ニュージーランドは単一市場、単一規制、単一制度の国になる。また、ニュージーランドでは、1990年代まではかかる商業的カジノ賭博は違法だったが、1990年に不況の影響を受け、オーストラリアの成功事例にならい、制度を創出して、カジノ施行を限定的に認めることになったという経緯がある。もっとも、オーストラリアと同様にニュージーランドにおいても、慈善目的の資金集めとしてのコミュニテイー・ゲーミングと呼称される地域社会における限定的な賭博行為が認められていたと共に、カジノの制度実現以前から別制度によりホテルやパブ等にスロット・マシーンやビデオ・マシーン等のゲーム機械が設置されてきたという事実がある。現在においてもこれらゲーム機械は、総数としてカジノ以上に大きな存在として国内に平行的に存在する。また絵競馬等の伝統的賭博も従前より存在した。2010/11年度での国内総賭博支出は19億6700万NZ㌦となり、内競馬・スポーツ・ブッキングが2億7300万NZ㌦、ロッテリーが4億400万NZ㌦、カジノ外の電子式ゲーム機械が8億5600万NZ㌦、カジノが4億3400万NZ㌦となる。尚、カジノ及びカジノ外のゲーム機械は免許制度による複数の民間事業者による施行となるが、パリ・ミュチュエル賭博とロッテリーに関しては、各々TabCorpとNew Zealand Lottery(New Zealand Lottery Commission、政府が出資する公社)が独占的事業者としてこれを担っている。両社はオンラインでスポーツブックやロッテリー等を国民に提供することも限定的に認められている。
ニュージーランドは国自体が小さく、国内需要・市場構造自体も本来的に小さいために、賭博市場の規模は左程大きなものではない。カジノ賭博自体も、全体賭博市場の中で、その需要は相対的に小さいため、あくまでも施設数を限定的にすることが基本とされた。この結果、一定の市場管理施策をもとに制度が構築され、カジノの施行が許諾されている。
オーストラリアとの類似点は、
① カジノの事業者選定は国際公募方式とし、一定の地域再開発や都市開発、複合観光施設の併設を企図した企業投資誘致を図ったこと。
② 市場自体が左程大きくないため、外国旅行客を惹き付けると共に、地域住民の需要をも安定的に満たす機能とサービス内容を持つ地点と施設が志向されたこと、
にある。
一方、オーストラリアとの差異点とは、
① 地域独占・限定的な施策をとりながらも、最終的な立地選定は基本的に事業者の選択に委ねたこと(地域~都市~の選択は国が行ったが、何処に如何なる施設を提案するかは、土地の取得を含めて、全て民間事業者の提案に委ねている)。当初は南島と北島に1ヶ所ずつ(クライストチャーチとオークランド)2ヶ所という前提でもあった。オーストラリアでは地域再開発がカジノ施設設置の一つの目的であったがために、予め施設の地点は各州政府が指定したという経緯がある。
② 排他的独占権の期間と範囲は豪州に比して限定的となる。許諾期間は免許交付後25年と長いが、排他的独占権は僅か施行後2年として設定され、1996年以降は更なる事業申請が可能になる予定でもあった。一方、国民の間で、過度にカジノ施設ができることの社会的不安や反感が高まり、1997年に新たな事業申請を認めないモラトリアム法が成立した。2000年に再度これは3年間延長されたが、モラトリアム法制定前に申請された施設設置提案は法的に有効とされ、これらが99年、2000年に実現した4施設となる(北島ではダニーデン、南島でクイーインズランドに2箇所、ハミルトンに1ヶ所となるが、いずれも小規模施設でしかない。結果、現在では国内全体として6施設が存在する)。以後、ニュージーランド政府は、カジノの設置総数は既存の枠組みで充分と判断し、法により新たなカジノ施設の建設を禁止している。
ニュージーランドの特色は、その市場の狭隘性にある。当初は、カジノがもたらす経済効果に期待し、オープンな施策が考えられたが、小さな市民社会における過度の賭博行為の存在に対し、住民の不安が増大し、一定のレベルの施設数や施設規模に制限されたという経緯がある。最大の施設は人口集積地で観光地・商業都市でもある北島のオークランドにある施設で、オーストラリアと類似的な概念に基づく、複合観光施設ともいうべき巨大カジノ・コンプレックスになる。その他の施設は基本的にはスタンドアローンの中小施設を主体としていることがその特色になる。前者は大都市の中心部に立地し、地域住民と共に観光旅客をも顧客として志向する施設として構成されているが、後者は顧客の主体が地域住民となる施設となっている。