前述した如く、韓国では、韓国人が入場できるゲーミング・カジノ賭博施設は、制度上はカンウオンランド・カジノ1ヶ所のみとなるのだが、我が国における遊技と同様に、顧客に対し、電子式ゲーム機械を遊興の手段として提供し、商品を賞金として提供する簡易娯楽が、賭博行為の制度的枠組みの外に存在した。当初は遊技場ないしは成人娯楽室と呼ばれ、「射幸行為に係る規則及び処罰に関する特例法」により、地域を所管する公安当局より許可を得て営業できる認可事業でもあった。この仕組みは我が国における遊技産業と極めて類似的である。
この成人娯楽室における電子式ゲーム機械は、韓国において2001年から2006年まで異常な発展と実質的な賭博ゲーム化が進行した。その端緒は、金大中政権時代の一連の自由化政策にある。2001年9月に政府文化観光部(当時、現在の文化体育観光部)は、「CD、ビデオ及びゲームに関する法律」を改正し、認可制であった成人娯楽室を登録制とし、事後登録により誰でも自由に参入できる単なる庶民のための簡易なアミューズメント業としてしまった。これに加え、2002年2月に至り、文化観光部は、「ゲーム提供業店の景品取り扱い基準」を告示し、ゲームの最高配当率の制限条項を削除し、ゲームの賭博性を助長する規制緩和を実施した。更には、商品券の流通拡大を通じて、ゲーム産業と文化の発展を図るという目的で、この成人娯楽室で商品券を景品として取り扱うことを認めてしまった。かつまた2005年の法改正により、商品券の流通規制が緩和され、商品券の発行体もその流通事業者も換金にあたり、手数料を取れる仕組みが認められることになった。商品券は単純な景品と比較し、流通性は極めて高い。この商品券を成人娯楽室自らが現金に交換すれば賭博行為になり、当然法律により禁止されている。ところが、成人娯楽室の横手や裏にバラック建ての景品交換所が設置され、ここで10%のコミッションを取り、現金交換ができる慣行が定着したわけである。この景品交換所は第三者が経営しているという建前であったのだが、実質的には成人娯楽室の経営と同一とも見られていた。上記様々な施策は結果として、景品の換金性を制度的に認め、極めて緩い規制のまま、成人娯楽室を実質的な賭博場にしてしまったに等しい。この仕組みは、登録制でその設置がほぼ自由でもあったがために、雨後の筍のように国内に成人娯楽室を増やし、2006~2007年レベルで国内数万箇所にも及んだという。
上記商品券を発行するためには国の機関により指定を受ける必要があるが、商品券を発行する指定を受け、発行し、流通させることが韓国内で大きな利権となってしまった。政治家に対するロビーイング、金銭汚職や賄賂等が与野党や行政府の役人まで横行し、典型的な政官財の癒着と汚職に発展。火に油を注ぐように、法定上限を超える射幸性を備えた違法な機械(「海もの語り」)が登場し、その市場における急速な普及が、かかる動きを更に悪化させるに至った。2006年末、韓国政府は、射幸性の強いゲーム機が全国的に拡大し、庶民の生活と経済に深刻な被害をもたらしたとして、政府の失策を認め、行き過ぎた賭博類似行為を規制することを表明。この結果、政府は、射幸性の強い賭博関連営業を規制するという規制強化に政策を転換し、関連するゲーム機械は禁止、撤去されることになった。
上記の経緯により、成人娯楽室は2007年には制度的に廃止され、関連するゲーム機械も一掃され、撤去された。制度上は既に無いことになっているのだが、多くの成人娯楽室はゲームセンターとして、名前を変え、営業を再開し、庶民に対し、ゲーム機械による遊興を提供し、かつまた景品を提供する業としてもとの状態に戻ってしまっている。合法的な範囲内における遊興施設ということなのであろうが、実質的には闇行為も横行しているようでもあり、非合法の簡易賭博機械が未だ韓国社会には存在するという情報も多い。
上記は、韓国国民のゲームや賭博に対する性向が極めて強いという事実と共に、①甘い規制と監視の仕組みは、市場において限りなく不正を助長してしまうリスクがあること、②景品を商品として提供する仕組みは、機械の射幸性や現金交換可能性次第では、限りなく賭博行為に近くなり、合法と非合法の線引きも限りなく不透明になってしまうこと、③かかる遊興の在り方は、厳格な制度や規制が無い場合、市場にて歪むリスクが高いことを示唆しているともいえる。これに対応できる規制や法の執行は韓国ではいまだ実施されているとは判断できない。