韓国では2000年代以降、違法なゲーム機械による賭博行為が横行し、大きな社会問題になり、2006年に生じた成人娯楽室と射幸心を煽る電子式機械ゲームがもたらしたスキャンダルは、賭博市場全体を抑制し、その否定的側面を除去すべきという政治的ドライブをかけることになった。この結果、2006年7月に韓国国会は「射幸産業統合監督委員会法」(National Gaming Control Commission(NGCC) Act, 規則8279号)を制定し、2007年1月26日に施行されている。同年に設立されたこの射幸産業統合監督委員会とは、ギャンブル産業を統合的に監督することができる行政委員会でもあり、賭博行為に対する社会的問題の最小化を企図し、賭博産業自体を健全なレジャー産業とするための監督機関になる。この意味では個別の業を個別に規制する規制機関ではなく、否定的側面を縮小化することがその目的にある。対象となる韓国の賭博関連産業は、競馬、競輪、競艇、カジノ、ロト、スポーツ・ベッテイング(サッカーくじ)、その他ロッテリーくじと全ての賭博種となる。
同委員会は、国務総理室傘下に設置され、非常勤の委員15名で構成される(委員長は総理が任命、4名は戦略金融担当副大臣、公共管理安全担当副大臣、文化体育観光担当副大臣、食糧・農業・林業・漁業担当副大臣、残り11名は大臣の推奨により総理が専門家の中から任命する)。その権限は、①国としての包括的賭博産業計画の立案と実践、②賭博産業の過剰な拡大の抑制、即ち賭博産業の全体売上に対する上限(キャップ)設定、総量調整基準の策定。新たな賭博種、施設設置、公告等に関する許可権、③賭博依存症に関する防止・抑止・治癒活動の実践等にある。但し、実質的監督権限、認可等の権限は必ずしも明確とはいえず、厳密な意味での規制機関ではなく、全体調整の機関でしかない。2009年上記監督委員会は、各賭博種に係わる売上上限規制を一定の判断基準の下に制定し、基準とされた売上を超えるような場合、制裁措置(毎年上限を設定するため、上限を超えると翌年度の上限の減少や賭博中毒対応施策に関する分担金を増額)をとることを公表し、2009~2010年にかけて大きな混乱と戸惑いが関係者に生まれた。これを収益上限施策(Revenue Capping Policy)と呼称しているが2009 年に国全体の全ての賭博種の総収益をGDPの0.58%の上限とするという規定でもあった。他の公営賭博なら売上抑制は例えば競技開催日の減少等で対応可能であろう。一方、ことカジノ賭博に関しては、制度的には自由な営業が認められておりながら、売上上限を人為的に規制として設けるという考えが適切な考えとなるか否かには異論もある模様だ。例えば江原ランドの場合、2009年に設定された上限は1兆579兆ウオンで同年の実際の売上は1兆1553億ウオンとなり、974億ウオンの超過となった。超過分の50%をカットし、翌年の上限値が設定されることになり、江原ランドの場合、2010年の上限値は1兆774億ウオンとして設定された。2011年には不況に伴う宝くじブームが生じ、年初の上限規制を越えることが想定されたため、同委員会は宝くじを発行している企画財務部(福券委員会)に対し一部販売停止勧告を出すに至った。但し、勧告は遵守されず、曖昧な形で決着している。委員会の決定の拘束力は弱いわけで、射幸産業の規制や監督業務規制をより厳しくし、射幸産業自身による、依存症予防治療の負担金拡充等を規定する改正法案が国会で審議中といわれている。但し、消費を抑制させ、企業の成長を意識的に総量として抑えるというかかる手法は他国では見られない厳格な手法でもあり、定着するか否かは大きな課題になる。また、単純な形で総需要を抑制できない業の場合、上限を超えることがどう営業に影響を与えるか等に関しても大きな懸念が残ってしまう。
上述した委員会法第14条、施行令第8条の規定に基づき、同委員会の下に「韓国賭博中毒予防治癒センター」(Problem Gambling Counseling Center, PGCC)が国の機関として設置されている。この機関の目的は、賭博依存症に関するカウンセリングや、治療等支援、関連組織に対する財政的支援の供与や、一般公衆教育、人材育成、依存症問題に関する調査研究等がその業務となる。また、これら業務に関連し、NPOや治療・カウンセリング機関等との調整・協働を行っているが、予算規模はまだ限定され、活動領域も十分であるとは言い難い。カウンセリングの為の事務所は江原ランドにも設置され、事業者と協働し、様々な具体の活動が実践されている(例えば地域住民は入場に際し、住民登録証を提示するが、一定期間内に何回訪問したかが記録され、入場券にプリントされる。過度の賭博行為への傾斜をチェックする仕組みなのであろう)。
この様に、韓国では当面、国民の賭博に対する熱意を冷やし、国にとっての賭博総需要を一定のレベルに抑制するという他国には見かけない政治的施策が取られている。果たして需要総量を意図的に抑止することが適切といえるか、韓国にとっては今後の大きな政策的課題になる。かつ、かかる政策の下で、韓国民を対象にする新たな賭博施設を認める余地があるといえるのかに関しては懸念も大きい。