マカオは人口57万6千人、面積わずか28.6平方㎞の小さな、特別行政区でしかない。中国返還後の2002年にカジノ制度の本格的健全化、近代化が始まり、既に10年が経過しているが、この間、膨大な投資とカジノホテル関連の施設拡張が行われ、マカオの経済規模は3倍に成長している。この成長は著しく、2006年レベルで既にラスベガス市ストリップ地区の総粗収益を追い抜くに至っている。総粗収益規模は2006年に前年比31%増の135億米㌦(1,077億MOP)、2009年には前年比8%増の149億米㌦(1,204億MOP)、2010年には前年比58%増の234億米㌦(1,866億MOP)と世界不況にもかからず、成長の動きは止まらない。2011年では総粗収益ベースで、前年比43%増、335億米㌦を達成したが、これはラスベガス市ストリップ地区の約5.5倍の規模となり、世界最大のカジノ・ゲーミング市場へと発展するまでに至っている(即ち、米国ラスベガス市とアトランチック市を足したものより遥かに大きい)。2012年は前年比13.5%増で380億米㌦(2,690億MOP)規模となった。これら総粗収益の急激な成長は、毎年新たな巨大カジノホテル施設が新築され、その営業が開始され、市場全体の賭博サービス供給が増えたことによる増収という背景もある。コタイ地区における巨大カジノホテルの新増築は、今後も継続して実現しつつあり、2015年までこの基調には変化がないものと想定されている。
2012年レベルでのマカオへの来訪客数は約2800万人であり、その内訳は、中国本土53%、香港30%、台湾6%、その他アジア諸国9%、その他諸外国2%となり、中国本土及び中華系の顧客が過半を占める。香港からフェリーで1時間、比較的富裕層の多い、中国沿岸部からの顧客や、マカオ訪問ヴィザ発給緩和措置に伴い、中国大陸内陸諸都市からの富裕層集客が実現している。2012年末公表データによると、現状テーブル数が5,498台、スロット・マシーンが17,035台となり、様々なゲーム種が提供されてはいるが、収益の源泉は圧倒的にVIPバカラ、バカラになる。総粗収益の72%はバカラ・ゲームによるVIP顧客からの収益になり、VIP市場が急激なマカオの成長を支えている2012年レベルでの一日あたり平均テーブル収益(Win/Unit/day)は17,854米㌦、スロット・マシーンの一日あたりの平均収益は、267.2米㌦で、バカラテーブルの収益率が当然乍ら一番高くなる。かつこれらVIP顧客の過半は中国本土からの顧客であり、VIPルーム・コントラクター/ゲーミング・プロモーターと呼ばれるサービス提供業者がこれら顧客に与信を与え、(現金を持たせず)マカオに誘致し、遊ばせ、後刻債務を徴求するという仕組みが根付いている。果たしてこの仕組みが今後とも、永続的なものになるのか否かに関しては不安要素もあり、中国政府の施策次第では、成長が鈍化するリスクはゼロではないといえる。
マカオの新たなカジノ施設はコンベンション施設やショッピングモール等も併設され、家族も滞在できる統合リゾート化を志向してはいるが、現実はギャンブル好きの中国人富裕層により支えられている市場ということになる。一方、香港とマカオを結ぶ橋梁の建設や、マカオ~タイパをつなぐ新輸送軌道システム、中国内における高速鉄道のマカオとの接続、通関口の整備等、顧客の利便性を向上するインフラ施設は着々と整備されつつあり、今後段階的に顧客層が変化していく可能性も十分あると想定されている。
これらマカオの施設は2010年以降、シンガポールにおける類似施設の台頭により、競争圧力にさらされている。シンガポールはマカオより税率が低い為、VIP顧客を惹きつけるためにより高いコミッションをVIPルーム・コントラクターに支払ったり、顧客に対するキャッシュリベートをより多く支払ったりすることができるためである。一方、現実的には現在に至るまで左程の影響がでていないのは、そもそも中国人にとり、シンガポール入国ヴィザが取りにくいこと、やはり中国より3時間の距離があることと共に、顧客に与信を与える中国的なジャンケットの仕組みを当局が制限していることより、市場のすみわけが成立している事情による。それだけアジア全体の市場規模が拡大しているということでもあろう。
現状の6つのカジノ・ライセンスは各々がライセンス期間は20年で、既に半分を越したことになるが、内、Sands China, Wynn Macau, Galaxy Entertainment, Melco-Crownの4社のライセンスは2002年6月にコンセッション契約が締結されたため、2022には失効する。SJM, MGM社に対するライセンスはそれより早く2020年3月には失効することになる。これらの具体の施設は23施設がマカオ半島、12施設がタイパ島(SJMが20施設、Galaxyが6施設、Venetianが3施設、 Melco Crownが3施設、 MGM、Wynnが各々1施設である。