マカオにとり、ゲーミング産業は、この特別行政府の予算の過半を賄う唯一の重要産業になる。(2012年時点で)人口57万6千人と極めて小さな行政区でしかすぎないが、ゲーミング産業の趨勢がこの特別行政区にとり極めて重要な位置を占めていることになる。このマカオ特別行区政府の規制機関は、特別行政府・財政局(Finance Services Bureau)に、規制当局としての「ゲーミング検査・調整局」(澳門特別行政区政府博彩観察協調局Gaming Inspection and Co-ordination Bureau-DICI-)が設置されている。あくまでもマカオ特別行政区政府の一部局でもあり、独立的な地位を持った機関ということではない。この政府部局が、マカオにおける全ての賭博行為(カジノ並びにパリ・ミュチュエル賭博)の監督・規制・監視・監査・検査業務を一元的に担っている。同局は特別行政府を代表し、規制、監視、認証、許諾、違法行為摘発、行政罰の賦課等、広範囲の権限を保持する。 ゲーミングの施行は、特別行政区が選定された民間事業者に対し、コンセッションを付与するという形式をとり、認められている。コンセッション付与に伴う付帯条件等はコンセッション契約に規定されることになる(欧州ポルトガルの考え方の遺制であろう)。民間事業者はこのコンセッション契約に従い、投資義務を担い、施設を整備し、この施設を一定期間運営して、資金を回収することになる。この関係は、行政契約としてポルトガルの法理が貫徹するようでもあり、米国的なライセンスとは一線を画すと考えることが適切である。
尚、規制機関の行政権限はマカオ特別行政区規則第34/1993号により定義されている。組織としてのDICIは①カジノ賭博検査部、②パリミュチエル賭博検査部、③監査部、④研究調査部、⑤総務・財政部に分かれている。行政規則に定義されたこのDICIの基本的な所掌範囲は下記の通りである。
① カジノ、パリ・ミュチュエル賭博に係わる経済政策の立案、調整、執行。
② 法遵守、契約義務遵守に係わるコンセッション取得者の活動の監視とモニタリング。
③ コンセッション取得者、その他法令に明記された当事者の適格性並びに財政的能力の検証、監視並びにモニタリング。
④ カジノ・ゲーム運営の立地・設置許可、運営分類等に関する政府支援。
⑤ コンセッションに従い用いられる全ての機材・器具等の許可並びに認証。
⑥ カジノその他ゲーム活動に係わるゲーミング・プロモーター(ジャンケット)に関する認可。
⑦ 法規定等遵守に係わるゲーミング・プロモーター(ジャンケット)の活動並びに販売促進の監視並びにモニタリング。
⑧ ゲーミング・プロモーター(ジャンケット)、その経営者、従業員の適格性の検証、監視並びにモニタリング。
⑨ 法令による手続き規定に基づき、違反行為の調査並びに行政罰の賦課。
⑩ コンセッション取得者と政府、一般公衆との関係が法規定に準拠することを担保し、マカオ特別行政区にとり、最大の便益をもたらすことを担保すること。
⑪ 上記以外に特別行政区長官令ないしはその他の法令により授権される同等の業務の執行。
一方、法の執行(Enforcement)に関しては、特別行政区治安長官(Secretary for Security)の管轄下に「司法警察局」(Judicial Police)が存在し、この中の一組織である、「ゲーミング・経済犯罪調査部」(「博彩及經濟罪案調查廳」Department for the Investigation of Gaming Related and Economics Crimes)が犯罪捜査、摘発を担っている。この執行当局は、24時間、主要カジノ施設には警察官を常駐させているとの話だが、その規模や詳細の有様は必ずしも定かではない。かつ、規制当局との関係も必ずしも明確とはいえない。他方、事業者による自己規律や場内秩序を維持する仕組みは機能している模様でもあり、大きな治安、秩序の問題は生じていない。但し、どの程度の予算で、どのくらいの職員が配置されているのかの情報は開示されていない。かつ法の執行が厳格といえるのか、法はしっかりと施行されているのかについても、正確な情報が開示されているわけではなく、中華人民共和国の制度・慣行の不透明さを踏襲している。
この様に、マカオでは、規制や監視の枠組みは、特別行政区政府内の財政局の一部局が担っており、この目的の為に中立的な機関なり、特別の組織を設けたりしているわけではない。あくまでも特別行政区政府内の通常の行政実務の一環となってしまっているのであろう。制度や規則は、かなり改善されてきたとはいえ、旧来の遺制が残っている部分があると共に、透明性が欠ける側面があることは大きな課題になる。中国本土政府の意向次第では、基本的な政策が政治の恣意性により大きく変更するリスクもあると考えるべきであり、これがマカオにおける事業の最大リスクでもあろう。