2001年、マカオ特別行政区政府は、行政規則第216/2001号により「ゲーミング・コンセッション入札委員会」を組成し、国際公募により新たな事業者を選定する手法を採用した。2001年10月に内外21事業者(米国、オーストラリア、英国、マレーシア、香港、マカオ等)が応札したが、3社は失格し、18社がインタビューに招聘された。審査・評価の結果、2002年2月8日、委員会は①マカオ・ゲーミング会社、Sociédadé de Jogos de Macau SA-SJM社-(従前よりマカオに独占権を保持していたSTDMが新たに設けた子会社で後継企業), ②ウイン・リゾート社Wynn Resorts (Macau)SA(米国カジノ事業者Wynn Resorts社が香港企業と共に新たに設けたマカオ子会社), ③ギャラクシー・カジノ社 Galaxy Casino SA(米国カジノ事業者Sands Venetianと香港企業とのJVになるマカオ企業)の3社を新たなコンセッション事業者として選定した。尚、コンセッション自体は3つだが、現実的には各々のコンセッションの下で同一事業者が、市場が許す限りの施設、機材等を設置することが可能である内容になっている(即ち、一つの事業者が一つのコンセッションの枠内で複数カジノ施設を保持できることになる。SJM社自体が既に複数施設を保持していたために、現実にあわせて、コンセッションを定義したのであろう)。
一方、上記3社に対するコンセッションの枠組みは、そのままでは単純に機能しなかった。Wynn Resort(Macau)社は特別行政区政府とコンセッションに関する条件交渉に入り、その実現にはかなりの時間と紆余曲折を経ることになった。また、Galaxy Casino社は株主間での意見があわず、香港事業者と米国事業者がそれぞれ単独で、分かれて事業を担うことになり、当初のコンセッションで規定された投資コミットメントの確約は守りつつ、ひとつのコンセッションからサブ・コンセッションを分けるという考えが特別行政区政府により認可されることになった。実態は、香港資本のGalaxy社と米国資本のSands社の意見が割れ、一つのコンセッションを二つにわけ、サブ・コンセッションとして、Sands社のコンセッションを認めざるを得なくなったものである(このサブ・コンセッションはSands社の子会社となるVenetian Macau社が取得した)。これにより、公平性の観点から、他の二社にもサブ・コンセッションを一つずつ,認めることになった。この結果、サブ・コンセッションを含めて、6つのコンセッションを認めざるを得なくなったことが現実になる。結果、Wynn Resort (Macau)社はオーストラリアと香港のJV企業であるMelco-Crown Gaming Macau社にサブ・コンセッションを付与(巨額な資金を対価として売却した)、SJM社は米国のMGM社にサブ・コンセッションを付与するに至っている(コンセッション取得者は子会社のMGM Grand Paradise社)。この6社グループがコンセッション事業者としてマカオのカジノ産業を支えているといえる。尚、この他に、Melco-Crown社のサブ・コンセッションの枠組みの中で、実質的にサブ・コンセッションに近い利権を取得する事業者も現れており、既に法の抜け穴的な状態が存在している。これは、カジノ施設のVIPルームをリスク分担方式による部屋貸しにより、第三者たるゲーミング・プロモーターがカジノ事業に参入する慣行が従来から存在したが、この考えを巨大なホテル施設そのものとしてしまえば、現実にはサブ・コンセッションが実現してしまう。この意味では当初制度的に定めた3つのコンセッションという概念そのものが途中で意味がなくなり、変化したことになる。またコンセッションの考えそのものが制度的に極めて不安定で、透明性に欠けた手順で事業者が段階的に決められたことは間違いない。
尚、特別行政区政府は2008年春、当面コンセッションの数は6つ以上にはしないことを宣言し、市場の拡大を抑制する考えを示した。一方、SJM社の権利を利用し、更なるサブ・コンセッションを得て、市場に参入している主体もあるが、(規制機関が別個にその適格性を検証しているわけではないため)果たして正当性のある事業者認可、運営手法といえるのか、懸念も多い。米国事業者による海外における展開はそのあり方やパートナー、資金拠出等に関し、米国において管轄米国ゲーミング規制当局による審査・許可の対象になり、当該米国事業者は自由に海外展開ができるわけではない。一部米国州では、海外事業における不祥事やパートナーとなる企業の現在過去における不法行為などは親会社にとっての清廉潔癖性の欠如の問題として把握される為、海外展開に際しては慎重な手続きや検討が採られることが通例になる。マカオのSJM社のオーナーたるスタンレー・ホー(Stanley Ho)並びにその同族グループは、過去の経緯により米国規制当局からは現在においてもグレーな存在として認知されてしまっているという状況もある。MGM社はスタンレー・ホ―の長女のパンジー・ホ―(Pansy Ho)との50・50のJVとして進出したが、米国ニュージャージー州規制当局は精査の結果、好ましく無いパートナーと認定、MGM社にマカオからの撤退かニュージャージー州からの撤退を迫った。2010年春、MGM社は何とニュージャージー州での自らの権益を売却し、同州から撤退することを表明、現在その手続き中にある。米国規制当局は、一部マカオの運営行為や運営事業者に関しては、現在でも疑わしい懸念を保持していることになる。最も2013年になりニュー・ジャージー州のカジノ産業の停滞、規制制度の変更に伴い、現在の同州規制当局は上記撤退を迫った判断を破棄し、MGM社と和解し、投資を維持せしめる意向を示している。マカオの現実を判断した上での現実的な妥協なのかもしれないが、その意図は明らかにされていない。