マカオの成功は、①制度を整え、市場を健全な競争市場としたこと、②このためのツールとして外資を積極的に誘致することで市場の活性化を図ったこと、また③外国投資家による設備投資のコミットメントを活用したこと、④地域全体を滞在型リゾートとして、健全化、安全化し、家族連れでも滞在可能なエンターテイメント施設化を志向したこと、⑤中国の経済発展や、中国国民の富裕化に伴い、彼らのエンターテイメントに関するニーズを吸収できる立場と役割をうまく活用できたこと等にある。もっともその顧客の過半は中国本土からの来訪客でもあり、台湾、香港を含めた大中華圏で考える場合、マカオ来訪客の約90%はこれら大中華圏の国民が占めることになり、優れて、中国系の顧客に傾斜した需要に支えられている市場であることが現実である。特に、中国南部の富裕層の存在が大きいと共に、中国本土政府の中国人に対するビザ発給緩和措置やこれに伴う中国人VIPの来訪がマカオの急激な発展をもたらした重要な理由の一つでもあった。巨大な需要が存在し、供給が限定的である場合には、必ず成功をもたらすことになる。
現在の中国本土とマカオ特別行政府の関係が現状維持になることを前提にした場合、当面マカオの持続的な発展は継続することになると想定される。但し、その持続可能性に制約となりうる要素もいまだ多いといわざるを得ない。例えば下記不安要素あるいは潜在的リスク等が存在する。
① 中国政府による賭博政策変更リスク:
中国本土では賭博行為は禁止されているが、ロッテリー賭博や、一部VLT等の賭博機械は存在する。但し、潜在的需要に対し、供給は極めて限定的になる。マカオはそのための賭博需要のはけ口なのであろうが、果たしてこの体制が持続的なものか否かは不明である。また、実質的には中国人の外貨携行は制限されているにも拘わらず、巨額の資金が中国本土から流出していることが現実となり、何等かの規制がかかれば、市場が壊滅しかねない側面もある。また、中国の高級官僚や党の要人による汚職や賄賂が、マネー・ロンダリングやマカオにおける賭博とリンクしている可能性は否定できず、これらの潜在的社会的問題の動向や深刻化次第では、中国政府の政策・方針が変わるリスクがないわけではない。
② 中国政府による自国民ビザ発給政策・方針(外国旅行許可)の変化:
現状は制限的な形で、一定の自国民が香港・マカオを訪問できるビザ発給を行っているが、中国政府の政策のあり方次第で、香港・マカオを訪問できる顧客総数が大きく変化することになり、この影響は多い。2008年から2009年の前半にかけて、中国政府は中国人によるマカオ訪問熱、賭博への傾斜を抑制するために、マカオビザ発給を制限する措置にでたが、一定期間後、訪問客が減少し、粗収益が減少する等の効果が表れた。もっとも2009年後半には再度ビザ発給緩和を一部に適用、訪問客は増大している。この意味では状況次第で、政策は変化しており、必ずしも安定的であるわけではない。尚、この規制緩和は個人訪問スキーム(Individual Visit Scheme)と呼ばれ、ビザの発給の有無、難易度が訪問客数を大きく変えてしまうことが事実として明らかになった。
③ マネー・ロンダリング、ローン・シャーキング等の潜在的悪の存在、ジャンケットの不透明性がもたらしうるリスク:
既存の中国人VIPルーム・コントラクターやゲーミング・プロモーターは、中国人旅客にマカオで資金を貸し付け、後刻中国本土でこれを回収するという手法により、かなりグレーな制度環境のもとで、グレーな金銭貸付行為が行われている可能性が高い。健全な商行為が行われているという確証はなく、例えば不法行為として、中国本土政府が動いた場合には、VIP顧客の喪失という形でマカオは大打撃を受ける可能性もある。また、かかる風評が立った場合、顧客減もありうる事象になる(事実、あまり報道されてはいないが、散発的に中国の内陸部において公安当局による違法行為摘発は行われている)。
④ 潜在的競争相手の輩出とVIP争奪競争リスク:
可能性は少ないが、中国政府が、マカオ以外の中国本土に類似的なカジノ賭博施設を設置した場合、マカオ訪問客は確実に減少する。またマカオ外の近隣外国諸国で、類似的な競合施設ができた場合、税率、サービス、アメニテイーのあり方次第では、中国人VIPを含めたアジアVIPの争奪戦が生じる可能性がある。この場合、潜在的なマカオの顧客が一部漏出するという可能性もゼロではあるまい。
⑤ マカオの制度・規制の脆弱性がもたらすリスク:
制度の曖昧さと不透明性は、市場の健全な発展の障害になることがある。現状は健全でも、規制や制度が甘い場合、何らかの形で悪や不正が関与しうる可能性もゼロではなくなる。如何に健全性と安定性を持続できるかに今後のマカオの発展が依存しているともいえる。
米国資本のマカオ市場参入は、マカオを限りなく健全化させ、米国流の制度や規制の導入と共に市場の透明化が推進されるということが期待された。これはある程度成功したと判断すべきだが、現実は過去の遺制との妥協でもあった。市場の更なる発展と共に、これが改善される余地もあるわけで、どう市場が変化していくかによっても、状況は変わるのであろう。