VLT(ビデオ・ロッテリー・ターミナル、Video Lottery Terminals)とは、コンピューター技術を駆使した、インスタント・スクラッチ・ロッテリーと類似的な機能を画面上で提供できる端末賭博機械である。原理的にはあくまでもロッテリー(宝くじ)に過ぎないとして、中国政府国務院/財政部・民生部の判断により、2003年6月28日より、全国的規模でかかる宝くじVLTが中国では導入されつつある。もっとも実態はサーバー管理型のイントラ・アクテイブ・ゲーミング機械で、スロット・マシーン的な機能と共に複数のゲームをオンラインで提供できる端末賭博機械になる。オンラインにより、1つの中央コンピューター・ターミナル・サーバーにすべてのVLT端末が接続され、管理者(政府機関)がサーバーにプログラムを設定し、そのサーバーが全てのVLT端末の当たりを決定する仕組みになる。この機能自体は確かにロッテリーと同一である。管理者はサーバーを通して各VLT端末毎の賭け金、払戻し額、顧客の行動等をリアル・タイムで捕捉することが可能になり、限りなく、不正行為や不法行為は生じ得ないシステムになる。表面上はロッテリーとなっているが、実質的にはスロット・マシーンないしはビデオ・マシーンを認めたことと等しく、国民にとっては、これは単なる賭け事の為のスロット・マシーン以外の何物でもない。
このサーバー管理型電子ゲームともいうべきVLTは、中国では、2002年に試験的に導入されたが、国民の大きな人気をもたらし、短期間に中国全土で大きく成長・発展していった。このVLTは認定民間システム供給事業者が試験的に導入し、中国福祉ロッテリーセンターも関与しつつ、地方の民間企業や外資系システム企業との連携等により、短期間の間に中国全体に急速に拡大していった(2005年には176ホール、4303台であったが、2007年には900ホール、22000台という公表数値がある)。一部には違法行為や類似的なインターネットを用いたゲームが市場に流通するに至り、2007年11月26日及び12月24日に、国務院/財政部、スポーツ監督機構、公安部は共同で二つの声明を公表(2007/36号、2007/84号)、一旦全ての運営を禁止にし、違法行為を根絶した後に、2008年2月以降は、「中国福祉ロッテリーセンター」China Welfare Lottery Issuing Center CWLC)が市場全体を一元管理する方向で市場の再構成がなされた。CWLCによる下請けは禁止され、全てのVLTは直接CWLCが運営する形態となり、個別端末はオンラインでサーバーにより管理され、賭け金、あたり、支払い等を中央で全て管理できる仕組みをとった。市場全体を単一システムカバーしたことになる。
仕組みとしては、2008年以降は下記の如きになる。
① 実際のVLTホールや機械の設置は地域単位の企業に委ねられ、機械自体はオンラインでCWLCが全て運営・コントロールする(即ち、施設と機械端末の整備・運営は民に委ね、管理は公が担う仕組みで、リスク・費用と利益を分担しあうことになる)。
② スロット、ポーカー・ゲームやその他のゲームがこのVLTにより提供される。顧客はプリペイド・カードを購入し、これをVLTに挿入して遊ぶ(営業時間は10時から22時)。射幸心を煽る一部ゲーム種は禁止。
③ あたりはカードに自動的に記録する(1万元以下の換金はホールで実施する、これ以上の高額のあたりの換金はCWLC経由となる)
④ 顧客によるカードへのチャージ最高金額は1万元、ゲームの最低賭け金は0.1元、顧客1日あたりの賭け金総額は200元に限定する。
⑤ 顧客に対するペイアウトは65%、賭け金の内20%は公共福祉開発の為の公共財源となり、15%が発行費用としてVLTホールやシステム運営業者等の関係者に配分される。
上記の結果、2008年上半期はVLT売上が激減するが、下半期以降はゲーム種も増え、市場は再度活性化している。但し、上記の如く、顧客に対するペイアウトはあまりよくない(2008年5月の四川大地震復興資金とするために、このVLTの収益は2008年7月から2010年12月末までの間にかけ、災害福祉ロッテリー基金に充当された)。2011年では、VLTはCWLCの売上の13.2%を占め、総額170億元に達するに至っている。
中国では賭博行為は当然禁止され、ロッテリーのみが認められているが、このロッテリーという名目で実質的には電子式機械による簡易的な少額賭博が導入されていることになる。射幸心を煽る事を規制する制度が前提となるが、それでも国民の人気が高まっているのは、余暇に対するニーズが高い割には、その供給が限られているからなのであろう。本音と建て前をうまく使い分け、極めて曖昧な制度的枠組みのもとで、実質的に一部賭博行為を認めていることが中国の実態である。今後市場は拡大する可能性が高いが、かかる制度的に曖昧、かつ不安定な状況がいつまで継続しうるかに関しては微妙な側面もある。飴と鞭をうまく使い分ける政策でもあり、この分野に関しては必ずしも改革・開放路線が定着しているわけではない。