2005年4月のシンガポール政府による案件推進の意思決定と共に、政府は政府観光局を主体にして事業者選定手続きの準備を始めると共に、内務省を中心に直ちに法制化の準備に入った。同年秋には法案が公表され、2006年2月にシンガポール国会は「カジノ管理法」(Casino Control Act)を可決し、新たな制度的枠組みを制定した。事業者選定を実施する入札はこの後のステップになり、制度としての枠組みを固めた後に、二つのサイト毎に事業者選定のための入札手順に入ったことになる。制度として規定されている内容はかなり包括的な実施法に近い規定内容になる。即ち、健全かつ安全な施行を確保するために民間施行者に対する免許交付とその手順、規制と監視を担う国の機関としての「カジノ規制機構」(CRA, Casino Regulatory Authority)の創設、施行者の遵守義務、経営者や職員等に対する免許交付手続き、カジノの運営手法・施設・使用機材等運営規制、課税、未成年者の取り扱い、「賭博依存症国家評議会」(NCPG)の創設等網羅的な内容になる。法の構成としては、英米や豪州の事例に類似的な内容である。
規制の構図は、内務大臣の下に国の規制機関となる「カジノ規制機構」(Casino Regulatory Authority)を設け、この機構が、免許に関する審査、背面調査、免許の交付、停止、はく奪等の判断、細則制定、監視、検査等を担う。一方、シンガポール警察の犯罪調査局に別途、新たな部として「カジノ調査部」(Casino Investigation Unit)を設け、これが実質的に法の執行を担う。また、税徴収行為は、既存の「内国歳入庁」がこれを担うことになる。米国を参考としつつも、行政的な構図としてはオーストラリアの制度に類似的でもあり、基本的には内務省大臣(内務省)による一元的な管理組織である。また、対象となるカジノが二ヶ所のみである事情を考慮し、簡素化された行政機構や規制モデルが前提となっている。警察の機能も既存のストラクチャーを踏襲しながら、新設のユニットを設け、調査・違法行為摘発を担うという考えに近い。この意味では、スリムな行政機構になると共に、規制当局の役員は民間有識者や弁護士等の専門家、及び関連する省庁の代表から構成され、単純な民間有識者からなる組織ではない(現状は議長及び15名の役員から構成されている)。カジノ規制機構が立ち上がる前の必要な業務は内務省に準備室的な組織を立ち上げ、内務省が業務をこなしながら、2008年に機構を別組織として立ち上げている。詳細規則等も内務省と連携しながら、検討し、段階的にこれを取り決めている。尚、この時点で既に、シンガポール警察当局内部にカジノ調査部が設置され、機能していたが、これは競争する民間事業者自体の適格性をチェックする作業を始めながら事業者を選定するプロセスをとったことを意味している。関与する主体には特権としての免許(ライセンス)を規制当局が交付するが、適格性認証が絶対要件で定期的にその資質は見直され、関係主体による行為は常にモニターされ検証されることが全ての前提になる。
下記が制度上の注目すべき点になる。
① IR開発契約と免許申請・交付の分離:
カジノは2ヶ所のみの寡占を前提とする(ライセンスは60年の期限。10年間に限り、政府は新たなライセンスを付与しないという独占権付与が前提となる)。尚二つの事業者との契約は開発契約であり、一定の投資を実現した場合、初めてカジノの免許(ライセンス)申請を政府にできるという内容になる。よって、当初の契約の中でシンガポール政府はカジノライセンスの付与をコミットしているわけではない。事実2009年も半ばを過ぎた時点でもライセンス申請はなされなかったのは、要件を満たす投資がまだ実施されていなかったという事情による。実際には両施設いずれもが、運営開始直前にして、ようやくライセンスが付与された。
② 欧米の制度を基準としつつ、アジアの枠組みとして再構成した事例:
2006年に議会で制定された「カジノ管理法」は、実施法的な内容になり、カジノの運用および規制並びにカジノのゲーミングに関する条項を定め、シンガポール・カジノ規制機構を設置し、同規制当局の機能および権限並びにこれらに付随する諸事項について規定する内容になる。法の枠組みとしては英国、内容的には米国や豪州の考え方を積極的に取り入れ、精緻な仕組みとなっている。
③ 簡素化された組織と段階的な規則制定:
規制の内容は精緻かつ厳格だが、2ヶ所のみの許諾である以上、規制組織や、法の執行を担う組織も簡素化されたものになっている。実際の業務量に合わせて合理的な組織を作るという配慮となり、規則詳細も2009年以降段階的に制定され、概容が明らかになったのは運営開始直前の2010年初頭でしかない。かつ一部規則に関しては実際の運営行為を睨みながら制定したという側面があり、規則を実際のニーズに適合させるアプローチが採用された。