シンガポールのゲーミング税の考え方は豪州の考え方に類似的な側面がある。ゲームの提供をサービスと見なし、その売り上げ(ゲーミングに係る総粗収益)に対し、通常の物品サービス税(GST 5%)を賦課すると共に、更にこの総粗収益に対し、カジノ税を賦課するという形式を取る。尚、これとは別に、当然のことながら、費用控除後の企業の収益に対しては企業所得税がかかる。カジノに関する税率は固定となるが、売り上げ(粗収益)をVIPと通常顧客に二分し、各々の総売り上げに対し、異なった二つの税率を提供するという面白い考え方が採用された。
即ち、
① プレミアム・プレイヤー(VIP顧客)からの総粗収益:税率5%(上記物品サービス税を考慮すると、実効税率は10%となる)。
② その他の全ての一般顧客からの総粗収益:税率15%(上記物品サービス税を考慮すると実効税率は20%となる)。
上記のプレミアム顧客ないしはVIP顧客とは高額賭け金顧客(ハイ・ローラー)のことを意味する。通常の顧客に関する売上とは別に、このVIP顧客売り上げに関する税率を低く設定するということは、事業者に対し、プレミアム顧客を誘致する強力なインセンテイブを与えることを意味している(シンガポールでは制度上は、フロント・マネー最低10万㌦を預託する顧客がVIP顧客となる)。例え税率を低くしても、プレミアム顧客を誘致し、巨額な金額を賭け事の対象にすることができれば、ここから得られる収益はマス・マーケットである一般顧客からの収益を遥かに陵駕することができる。尚、この税率はマカオと比較した場合、競争的でもあり、税ではなく、事業者や関連サービス提供者に対し、より利益配分が大きい構図となる。この結果、VIP顧客に対するキャッシュ・リベートも厚く設定できることにより、顧客サービスを高めることができるという効果も生まれる。この意味では、アジア市場において、マカオとの間で一部高額賭け金顧客の争奪競争が生じている側面もある。尚、上述中カジノ税に関する税率は、法律により、2ヶ所目のカジノ用地が指定される日付から始まる15年間にわたって引き上げられない旨が規定されている。一方、物品サービス税(GST 5%)は、カジノとは関係の無い要因により増減しうるリスクがあるが、これに関する固定措置というものは考えられていない。上記税は、毎月政府内国歳入庁の会計検査官に、月毎に支払うことになる。また税金の使途は、一般財源であり、特定目的に税を支出するということは制度上想定されていない。尚、事業者の負担は上記のみならず、60年に亘る土地賃借料や、様々なインフラ施設整備費負担、開発・契約に至るまでの全ての政府諸経費分担、公共施設部分に近い施設の整備・維持管理等かなりの負担になっており、ゲーミング関連税のみが事業者の負担ということにはならない(また、事業者の企業所得に対しては、別途一般法に基づき17%の企業所得課税がかかる)。
尚、上記の他に運営事業者は別途、カジノ管理機構に対し免許を申請し、取得することが義務付けられ、この為の申請料、手数料が課せられる。運営事業者に雇用される全ての管理者、従業員も個別免許の対象となり、申請料、手数料の支払い対象となる。これら料金、手数料、あるいは運営に伴い徴収されうる罰金、和解金等は全てカジノ管理機構の収益として計上し、同機構の運営費用の一部として支出できる。また、国の機関の費用は、当初国が一般会計から拠出し、その後は上述した認証料や手数料等で賄い、原則財政的に独立した運営がなされることが基本となる。
上記は運営事業者に対する課税となるが、シンガポールでは、来訪外国人旅客は無料となるが、シンガポール国民のカジノ施設への入場に対し、入場料を徴収する。専ら、自国民の過度の賭博行為への傾斜を抑止するための施策でもあり、制度的には、カジノの運営事業者に原則シンガポール国民をカジノ施設に入場すること、施設内に留まることを許可しないとし、例外として運営事業者に一定の入場料を払う場合は認められるとしている。この入場料は、
① 24時間の連続した時間ごとに(即ち1日につき)S$100(約$70米㌦、物品サービス税を含む)または、
② カジノ施設の正当な年次会員についてはS$2,000(約$1,900米㌦、物品サービス税を含む)、
と制度上規定されている。
尚、この入場料は、上述した税とは異なり、毎月シンガポール政府・トータリゼーター賭博局に支払われ、同局によりシンガポールにおける公的、社会的または慈善的目的のために支出されるものと規定されている。入場料は、税ではなく、射幸心を抑制する目的である以上、その収益は慈善目的の為に支出すべきという考えをとっているわけである。 また、所轄大臣は、カジノのための2ヶ所目の用地が指定される日付から10年間の満期後に、官報に発表される命令により、入場料の金額を変更することができる。