台湾の行政院・経済建設委員会(CEPD)は、国家経済開発計画を策定し、開発プロジェクトの評価、行政院に対する提案、省庁による経済政策立案活動の調整機能、開発のモニタリング等を担う政府機関である。この行政院・経済建設委員会は2008年12月26日に、半年以上に亘り議論の対象となったカジノ賭博を認める報告書を策定し、政府に提出した。カジノを経済開発の一手法として認めるべきという主張・政策は、馬総統の大統領選に際しての政権公約でもあったという背景がある。
上記を受け、2009年1月12日、行政院は立法院(議会)に対し、「オフショア群島開発法」(Offshore Island Development Act)を改正する案を上程し、この中において一定条件を満たす場合、カジノ賭博を認める内容の法改正を与党国民党の賛成多数(賛成71、反対26)で可決、成立させた。法改正の本来の目的は、主にオフショア群島の観光振興にあり、個別の群島の特性に合わせて政府が開発行為を推進すると共に、統合型リゾートの開発を推進し、国際的運営事業者の投資により国際的観光ホテル、観光施設、会議施設、ショッピング・モール等の投資を実現、地域住民の同意を得て、このリゾート内に小さなカジノを設置することを認める内容になる。この意味では、単純にカジノの許諾と運営の詳細を決める法律ではなく、既存の法律を改正し、実現できる枠組みをまず作り、詳細内容は別途法を定めて今後詰めるという内容でしかなかった。よって、制度の中身はこの段階では詳細化されていなかった。わが国でいえば基本法・理念法のごときもので、基本理念と筋書きだけを法制度化し、この原則に基づき関連諸法案を改正し、後刻、新たなカジノ実施法を制定するという考え方になる。但し、下記内容が盛り込まれていることがその特徴的現象となった。
① 今後内閣は専門委員会を設置し、この委員会において、詳細なカジノ施行のあり方を検討し、取り決める(但し、施設数、施設規模、民間事業者の最低必要資本金等も未定で、強力な専門委員会を設置し、これが詳細を定めるとされた)。2009年7月9日に開示された一般原則では、ライセンス数は二つとし、外国投資家には制限を設けないが、一定の出資率規制はありうるとしている。
② 実際のカジノ実現は4段階でこれを行うとし、まず、対象地域における住民投票の実施、その後ゲーミング運営規制法(Gaming Operation Regulatory Act)の制定、政府によるライセンスの申請受付及び付与、施設規模・詳細仕様要求事項等の策定と決定という手順を踏むとされた。
③ 首相府に国家ゲーミング委員会(National Gaming Commission)を設置し、同時にカジノ規制局(Casino Regulatory Board), 依存症対応委員会(Problem Gambling Commission)等を設置することが前提とされている。詳細規則制定に関しては、首相府が主体になり、これに行政院経済建設委員会、教育省、運輸省、法務省、大蔵省、内務省、経済省、外務省、金融監視委員会などが関与するとされた。かなりの数の既存の法律・規則等の見直しが必要になり、オフショア群島開発法はその端緒でしかないことになる。当初は、別途カジノ賭博特例法を新たに制定するという考えが提示されたが、技術的に如何なる形で法体系を整備するかも議論の対象となったため、かかるアプローチが採用された。また、当然のことながら、刑法を改定し、税法を改定する必要もある。
④ 改正されたオフショア群島開発法には、関連地方政府が、住民投票(レフェレンダム)により住民による合意を取得できえた場合にのみカジノを施行できること、カジノ施設とはあくまでもリゾート施設の一部として、本土ではなくこれら群島に構成されるべきことが条件づけられている。よって台湾本島でカジノが実現することはありえない話になる。
⑤ 尚、カジノ外の改正事項としては、オフショア群島における営業税・輸入関税の免除、免税ショップ開設の許諾、中央政府の拠出(300億台湾㌦)によるオフショア群島開発基金の設立等がある。
台湾にゲーミング・カジノを認める制度的枠組みを構築することは、長年政治的議論の対象ではあったが、宗教勢力も含め、台湾国内において一部反発勢力も多く、政治的合意はなかなか実現しなかったのが過去の経緯でもあった。馬総統の政治力と政治的コミットメントにより、基本的な法的枠組みは、実現したことになる。基本的なコンセプトはシンガポールと同様、統合型リゾートでもあり、専ら中国人旅客を対象とすることが想定されている。但し、制度の枠組みはあくまでも離島振興、本来あまり注目を浴びない観光地としての離島であり、アクセスの問題や集客の実効性等に関しては未だ不確定要素が多いと判断せざるを得ないのが現実でもあろう。