アジアの中では、フィリッピンは歴史的にも制度的にも極めて独自の発展をしてきた国になるが、同国のカジノには下記特徴があるといえる。
① 賭博に対して、寛容な国民性と制度の在り方:
アジアでは珍しく、自国の国民、来訪外人旅行客を区別せず、賭博行為に関しては極めて寛容な雰囲気があり、自由な環境でこれを認めている国になる。施設自体は、観光地や大都市等に設置され、観光旅行客を誘致することもその目的の一つとなるのだろうが、実質的な施設の主要な顧客はフィリッピン人となっている。
② 規制者と運営者の機能が混同する制度の特殊性:
国が所有するPagcor社に規制者としての地位をあたえつつ、かつPagcor社は、自らが運営行為をも直接担うという極めて特異な機能を持っている。かつ、自らの直営のみではなく、第三者に対するサブ・ライセンスや、リース、リスク・シェアリング等様々な手法により運営行為を他の民間主体に委ねることも実践している。この場合、規制者としてのPagcorと運営事業者としてのPagcorとは利害相反の関係となり、一方で、事業収益増を企図し、他方でこれを規制するとなると、規制や監視は極めて甘い構図になってしまう。かつ、実質的な運営行為を第三者に契約的に委ねる場合は、限りなく単純な商行為に過ぎず、Pagcor社が規制者としての機能を発揮しているとは考えられない。関連しうる主体に厳格な清廉潔癖性を要求するという考えは弱く、制度的には殆ど何らのコントロールも無い。この点、グレーな制度と規制の枠組みであることは大きな懸念材料となる。
③ 清廉潔癖性、透明性の弱さ:
制度や規制の枠組みとしては、フィリッピンの在り方は、透明性に欠け、廉潔性が貫徹しているとは判断できない。かかる事情により、同国においては、カジノの運営は一種の利権となっており、これに関連する癒着や腐敗の構図を必ずしも否定できない仕組みになっている。果たして公正なサービスが提供されているのか、Pagcor社のみならず、関連しうるサービス業者やジャンケット等に不正や悪の関与が本当に無いのかに関しては、情報もなく、不明な点が多い。
④ 顧客層の特殊性:
実際の主顧客層はフィリッピン人で、これに若干来訪外国人旅行客が重なるのが実態となる。これら顧客は外国人も含めて、専らローエンドやミドルの顧客が主体でもあり、ハイエンドの顧客層を対象とする営業効率の良い施設ではない。空港インフラや他国とのフライトのアクセスの利便性等も改善されつつあるが、まだ貧弱な側面もあり、海外から富裕層を受けいれられる枠組みがまだ弱い。従来からあるPagcor社関連施設も必ずしも高規格ではない施設が過半でもあった。同国社会の風土にうまく根付いているフィリッピン人顧客を主体にした遊興施設ということであろうが、施設の収益性や今後の成長可能性に関しては、限界があるというのが現実でもあった。
⑤ ガバナンスの脆弱性:
国営企業でかつ最大の納税企業でもあるPagcor社の幹部は全て大統領の任命職となる。過去大統領が変われば、Pagcor社の幹部人事も変わるのが実態でもあった。尚、2010年大統領選に絡み、主要な候補者のいずれもが、Pagcor社の民営化を支持し、当選したアキノ新大統領は、2010年7月にPagcor社民営化を宣言、幹部も更迭され、現在は改革の最中にある。過去Pagcor社は権力と密接な関係を保持し、大統領の政治活動を財政的に支えてきたという過去の経緯もあり、民営化にはまだ時間がかかる模様で、今後如何なる関係となるかは、時間を経なければ検証することはできない。政治と密着し、政治に依存する構図は、確実に政治に利用されやすいガバナンスの仕組みを作ってしまう。規制者としての役割を政治から切り離すこと、Pagcor社は単なる運営事業者とし、政治から独立した新たな国の規制機関を設けることが、安定的な制度とする唯一の手法でもあろう。
フィリッピンは他の東南アジア諸国と比して、90年代以降、政情不安等の要因もあり、外国資本の積極的導入や産業・インフラ基盤の発展が遅れ、タイ、マレーシア、インドネシア等の諸国と比較すると劣後すると思われてきたのが実態でもあった。もっとも2010年代以降は、成長軌道にのりつつあり、同国の経済発展に伴い、潜在的な観光市場としてのフィリッピンの地位は確実に向上しつつある。