カンボジアは面積181,035平方km、人口1,340万人の東南アジアの国で、東はベトナム、西はタイ、北は中国と、東南アジアと中国に挟まされた好立地にある。同国では、1993年以降、これら隣国の富裕層や政府高官、旅行客に注目し、外国人来訪客を主顧客とするゲーミング・カジノを認めた。但し、実態面では制度や規制は無いに等しく、カンボジア国民も参加できる施設となっている。主務官庁は経済大蔵省となるが、明確な法規範があるわけではなく、特権的に営業が認められているが、その態様はグレーで法的に安定した内容であるとは判断できない。政府の役割の実態は税収確認のみで、規制や監視をしているわけではない。当初のカジノ許諾の政策目的は同省によると、①観光インフラ振興・開発、②国境周辺地区雇用促進、③国境周辺地区を戦略的に開発し、滞在型カジノ産業をカンボジアに興すこと、④国境地域における貿易を拡大し、農業活動を活性化させ、貧困撲滅に資すること、⑤観光振興、⑥税収増にあるとされてきた。2007年レベルでの公表されたカジノ関連産業収益は、$165億㌦、2008年1月~7月までの外国人訪問客は124万人(韓国人が多く14.5%、ベトナム人9.7%)となる。現状施設は28カジノが存在するが、プノンペンに1ヶ所、シアヌークビルに3ヶ所、残り24施設は全て国境に位置したバベット(10ヶ所), ポイペト(14ヶ所)の二箇所になる。
内、首都プノンペンの施設のみが高規格施設として知られており、マレーシア華僑がオーナーとなり、香港株式市場に上場しているNaga Corp社が設立したNaga World Casinoと呼称する1.3億㌦の投資による巨大なカジノ・ホテルがある。特色は70年間のライセンス(1995年~2065年)という超長期の許諾であり、かつ首都200Km範囲内における40年間に亘る独占権(1995年~2035年)を保持し、カジノの規模・内容・地点・設置機械テーブル等には制限は一切ないことなどになる。韓国、マレーシア、中国、タイ、ベトナムからミドルクラスのVIPというニッチ市場を開拓したことがその特色でもあろう。課税率が低く、粗収益に対する課税ではなく、2009年以降、固定ライセンス・フィーと一種の機械に対する設置課税から税が構成されており、実行税率は2%以下になると想定されている(労働費、建設費は割安だが、インフレ率は高い。また、実質的には㌦の裏経済が存在するという複雑な背景もある)。この結果、企業としてのNaga Corp社の業績は、入手できる情報から判断する限り、極めて良好である。
最も、上記施設は、理論的には地域独占を保持しているとはいえ、現実には政府はプノンペン並びに近隣に対し7つのゲーミング・クラブ許可を発行しており、25から30のスロットカジノ施設が存在している。この実態はミニ・カジノに限りなく近い。年固定税と機械ごとの売上げ税により、税収としてはかなりの魅力が政府にあるために認められた模様である。ライセンス料は12万㌦で、一部のクラブは月あたり100万㌦の売上げを出すところもあるという。
尚、国境に位置したカジノ施設とは、カンボジア・タイ国境(ポイペト市, Poipet)、カンボジア・ベトナム国境(バベット市,Bavet)に位置した宿泊施設を併設したカジノ・ホテルである(ポイペトはバンコックから車で3時間、アンコールワットから車で3時間の距離にある。バベットはホーチミンから車で1時間、いずれも、隣国からはアクセスが容易な地点となるが、カンボジアの首都プノンペンからは、かなりの距離になる)。国境周辺カジノは、隣国であるタイやベトナムではゲーミング賭博が認められていない事実に依拠した上で、この事実に寄生し、隣国の顧客を奪い、消費させるというビジネス・モデルになる。この意味では施設も、サービスも国際レベルではありえないし、諸外国の旅行者が訪問する滞在型リゾート施設的性格があるとは到底判断できない。かつまた国境カジノ施設の許諾ライセンスは資金を多く出せた主体に付与された模様でもあり、会計帳簿をつけているのか否かも疑わしい。限りなく不透明な慣行でカジノ施設の運営がなされていることが現実でもあろう。一方、隣国との国境紛争を巡る関係悪化によっても、顧客数は激減することもあり、2011年9月、11月荷はバベット市の二つのカジノ施設が資金難に陥り倒産している(VIP Casino, Winn Casino)。これら国境カジノはいずれも健全な経営をしているとは到底判断できない。
この様に、カンボジアの特徴は下記にある。
① カンボジアでは明確な制度や規制の枠組みがあり、カジノが設置されているわけではない。税収増の手段、外貨獲得の手段として特権的に認められ、まずカジノありきという前提で一定の施設展開を実施した国になる。制度としては極めて未熟で、国際的なレベルでの透明性のある運営や経営がなされているわけではない。
② この結果、マネー・ロンダリング、賭博依存症の横行、犯罪の増加、その他違法行為等が存在していることも確認されているが、政府として何らかの明確な対応策を取っているとも思えない。一般公衆に対する適切な教育や、より厳格な法規制の制定や法の執行が求められているといってもよい。
③ 一方一種の明確なニッチ市場として、ベトナムやタイの顧客を国境で惹きつけていると共に、東南アジア・極東を含むミドルクラスのVIP層を主要顧客としてうまく限界的に抑えている。但し、その他の国の健全なカジノの急速な展開により、現状のままではカンボジアのカジノは大きな持続可能性に対する懸念があるといってもよい。