テニアンとは北マリアナ群島の一角を占める小さな小島で、サイパンからフェリーで1時間、小型飛行機で10分の距離にある南洋群島の一つになる。行政区画としては米国の信託統治領になるが、日本から飛行機でサイパンまでは3時間、韓国、中国からは各々3時間半、4時間と左程の距離があるわけではない。人口はわずか3,000人程度しかいない。産業としては、米国の軍事施設が主体となり、後は南洋の自然を活用した観光ということになるのだが、自然以外に取り立てて目ぼしい観光資源はあまりない。かかる太平洋の離島を一種のリゾート地として、日本、韓国、中国等のアジア観光客を招聘し、カジノリゾートホテルを経営・運営しようとする構想は過去も存在したし、また現在も存在するが、現実にこれが実現したのは、北マリアナ群島のテニアンだけかもしれない。例えば、米国ハワイ州では賭博行為は何度も政治的に提唱されながら、議会では全て否決されている。サイパン島、グアム島の方があらゆる国からも、地理上も、飛行機のアクセスも良いが、賭博行為は認められておらず、現状はテニアン島のみになる。
テニアン島 のカジノは1989年の住民投票により「1989年改定カジノ・ゲーミング法」が制定され、制度化されたことを嚆矢とする。もっとも、1990年にできたのは、小規模カジノのみで、顧客を惹きつけることはできず、事業としては失敗した。その後1995年に再度暫定的なカジノが許可されたが、1年もたたずに、これも失敗。単純小規模施設では地元住民しか顧客は期待できず、観光振興以前の問題でもあった。本格的なカジノ・リゾートの設置は1998年に、香港資本であるHong Kong Entertainment (Overseas) Investments Ltdに対する行政府によるライセンス付与により、ラスベガスタイプのデイナステイー・ホテルの施設整備が実現し、初めて可能となった。税率は粗収益に対し13%、収益はテニアン政府の歳入に充当され、公共福祉・教育等に支出される。規制機関としてのテニアン・ゲーミング管理委員会があるが、必ずしも精緻な監視や規制を行っているわけではない。爾来、日本、韓国を始め、極めて限られた一定の国の顧客層を集客できるに至っているが、規模は極めて限定され、限られた顧客層にとっての限られた市場でしかないというのが現実になり、マス・マーケットとしては成長できていない。やはり、観光客の物理的集客力が無いことが最大のネックになっているといっても過言ではない。またデイナステイー・ホテルにおけるカジノ施設も一部縮小化しており、今後の可能性に関しては不透明感もある。
一般的にこのような一種の離島カジノとでも呼称できるリゾート・カジノの場合には、一定の顧客層を確保できれば、それなりの事業性を確保できるのだが、それ以上の発展の可能性には制約があることが多い。これは成功のためには、下記要素が必要なことによる。
① 利便性の良いアクセス手法が確保されていること(大型飛行機が発着できる飛行場と、定期便の存在、定期的な観光客の流れは必須の要素になる。サイパンには存在するが、テニアンにはこれがないことが致命的な顧客増に繋がらない要因になっている)。
② 巨大消費国とのアクセス利便性があり、これを対象とする市場アクセスやマーケッテイングがなされ、顧客にとっての来訪するメリットがあること(中国、日本、韓国、台湾等が本来期待すべき主要顧客国であろうし、これら国民にとり、当該南洋リゾートが魅力あるものとなるか否かに尽きる)。
③ 他の賭博提供地域と比較した場合、相対的競争性が保持されていること(類似的な要素の地点が近隣にあったり、より観光資源が豊富な国に魅力的な類似的施設ができたりした場合、確実に顧客は取られてしまう。一定の旅行をしてまでも行く価値がある場合に、初めて集客が可能になる)。
④ 多様なリゾート観光資源を保持しており、多様なサービスを顧客に提供できること(カジノだけではなく、多様なリゾート、観光資源を保持していることが多様な顧客層の確保に繋がる。これが限定される場合、顧客が来訪するメリットは縮減する。カジノだけで顧客を集めることは、その施設のロケーション次第では単純ではない)。
⑤ 最大来訪者数は飛行場の規模やアクセスの頻度等にも依存し、投資に見合う来訪者数が確実に確保できる明確な根拠が存在していること(これら要素をすべて満たし、ではどの程度の顧客の来訪があり、顧客による支出があるかは、絶対数としてどの程度の顧客が来訪できるか、いかなるその他の制約があるかにかかってくる。物理的な制限要素がある場合には、大きな数の向上は期待できなくなる。これが投資の上限を決める要素となる場合もありうる)。
他の南洋群島国家の中にも類似的なカジノ・リゾートを設立することにより、観光業を振興し、アジア顧客を誘致するという壮大な計画を立てている国もあるのだが、果たして実現できるか否か、また例え実現しても集客できるか否かは極めて疑問となる。この意味では最初にカジノありきではまず失敗することは間違いない。