果たして成功するか否かが不透明な南洋群島カジノの中で、これから実現しうる国としてサモアがある。サモアは南太平洋(ポリネシア)に位置するイギリス連邦加盟国で人口約18万人、ニュージーランドの北2,300km、ハワイの南3,700kmの南太平洋上に位置する広さ2,840㎢(鳥取県より少し小さい)の島国である。観光以外に特段産業もない群島でしかないが、首相の肝いりでカジノを観光の目玉にする政策がおしすすめられた。外国人アドバイザーのインプットを得て、2010年に「ギャンブル及びカジノ管理法」(Gambling & Casino Control Bill 2010)を制定し、国の規制機関を新たに設け、外資導入、観光施設開発型のカジノ実現の公募を行うという手段をとった。法律制定過程で、首相自らが様々な国の政治コネを用い、投資誘致に動いた形跡があるが、先進国企業からは見向きもされていない。わが国にも政治家に対するアプローチがあったが、さすがに直接のフライトも無く、観光資源としても未知数、単にカジノがあるというだけでは・・というのが大方の反応でもあった。
上記法は全文89条から構成され、制度として内容がしっかりしているのは、外国人のアドバイスを受けているからなのだろう。国の機関として「サモア賭博管理機構」(Gambling Control Authority of Samoa)を設け、この機関が事業者を公募、選定、協定を結び、かつライセンスを付与し、規制者となる単純な管理システムになる。顧客は外国籍パスポートの保持者で、かつ当該カジノホテル・コンプレックスの滞在者のみで、外国人専用施設となり、内国人には認められない。施設の数は主務大臣の推奨を受け、閣議で決めるが当初の10年間は2施設以内としている(法第23条)。粗収益の15%が課税の対象となる。公募の結果、事業者が選定されたが、一つは現地企業でもあるAggie Grey Beach Resort社、もう一つは何と中国成都に本拠を置く、コンベンション・旅行大手業者であるChengdu Exhibition & Tourism Group(ETG,成都会展旅游集団)が落札し、ライセンスを得ることになった。前者はApia島、国際飛行場に近い立地で宿泊施設に12のゲーミング・テーブル、85のゲーム機械を設置し、施設の管理運営は、澳門に本拠を置くコンサルタント企業であるAsia Pacific Gaming Consultancy (Macao) Ltdに一任するという。後者の中国企業は、主要島であるUpolu島に客室500室のリゾートホテル、ゴルフコース、物品販売店を設置し、ここに第三者に運営を委託する手法でカジノをも整備することとし、サモア政府に対し中国からのチャーター・フライト便開設を認めるように働きかけている。中国から直接大量に直接観光客を送り込むという考えになる。もっとも、いずれの場合も、運営事業者がカジノ・ホテルを提供し、ジャンケットを活用し、管理して、集客を図ればよいということが制度上の前提となっている模様だが、運営事業者は詳細ライセンス許諾の対象でありながら、ジャンケットに対してはこれが無いという中途半端な制度となっている。
案件を推進する首相は、確実に雇用増、観光客増、税収増が見込まれるはずとして、もしうまくいかなければその時点でやめればよいだけとしている。果たして、本当に当初のもくろみが実現できるのかには未だ不安要素はあるが、これは南洋の群島が新たに外資を誘致して、カジノ・リゾート開発を担い、観光客誘致施策を実施することがうまくいくか否かの試金石になる。離島カジノの場合には、一定の規模、一定の固定客層を囲み込むことができれば、事業としてはそこそこ採算があう施設となるであろうが、果たして一国の観光増に大きく貢献できる施設となるか否か否かには疑問符がついてしまう。
サモアの場合にも;
① 組織的な観光客誘致を図るためには、消費者を抱える国との直接的かつ便利な飛行機便、これを支える空港インフラ、当該国における高規格のリゾート施設や自然資源は必須の前提になる。アクセスが悪い場合には、観光施設としては集客上致命的な欠点を抱えることになる。
② 投資コストの大きさと、投資コストを回収できるキャッシュ・フローがバランスするか否かは、集客の大きさ、施設の稼働率、効率性と当該集客の消費性向にもよる。
③ 一方、中国の大手コンベンション・旅行業者による海外進出の在り方としては面白い。中国人観光客の為の施設を外国のリゾート地に作り、チャーター便を手配でき、組織的に中国人観光客を送り出せる仕組みをうまくつくることができうれば、需要と供給を特定企業が外国を舞台に囲い込むことを示唆しており、不可能なビジネスモデルとは言えない側面がある。
④ 一方サモア国内では、国内の教会が反対運動を引き起こし、国内の議論は二分化している。例え外国人専用といっても、結局ザル法となり、サモア人も入れる仕組みになってしまうのではないかとする根強い危惧もある。
サモアの事例は、限定的、かつ小規模の限られた市場であるために、アジアの現状に対し何等かの影響を与えるものではありえない。但し、小国・小地域が一定国の一定固定顧客層をターゲットとして組み込む集客戦略を前提とした場合、成功する確率は高くなりうる可能性がある。勿論これは可能性であって、超えるべきハードルはかなり高い。