実際のインターネット・カジノではどのような形で賭け事がなされているのであろうか。提供しているサイトは数しれないが、通常の場合、顧客はサーチ・エンジンや、サイト広告等によりサイトを探し出すことになる。またサイト次第では、特定のソフトウエアのダウン・ロードが必要な場合があり、このダウン・ロードを完了すれば、無料ゲームを体験することができる。よって最初は、資金は不要で、どう遊べば良いのか、ルールや遊び方をここで無料体験できることが多い。この後、個人情報の登録と、クレジット・カード等の支払い手段の選択等支払関連情報の登録が必要になる(所謂個人アカウントを作成する)。登録が済むと、この段階で遊ぶ資金の一定額をクレジット・カードから引き落としせざるを得なくなる(クレジット・カードからの支払い行為になるが、賭け行為をする前に、一定金額を預託すると考えた方がわかりやすい。あるいは遊ぶ為の資金として現金を電子チップに交換すると考えても良いかもしれない。もし、利用しない残額が生じた場合には、再度クレジット・カードにクレジットし、払い戻しを要求することができる)。この場合、登録して、資金を預託すると、ボーナスとして一定の無料チップを提供するなどの最初のサービスがあることも多い。この預託した資金の枠内でネット賭博を楽しむということになる。負ければ、当然金は戻ってこない。勝った場合には、電子チップが増え、残れば、後刻、これをクレジット・カードにクレジットすることができる。顧客にまず預託させるという意味では、ネット賭博事業者にとっては先取りに等しく、かつカード会社に預託の時点で支払い保証を求めることも可能となるために、顧客に対する与信という意味では、事業者にはリスクは殆どない。
上記全てのオペレーションは、通常の家庭のコンピュ-ターから可能であり、勿論我が国のあらゆる地点からでも上記は全て実施できる(当然のことながら、かかる手法で賭博行為をすることは、我が国では違法行為ではあるが、事業者が外国に存在し、サービスを国内の顧客に提供している以上、これを犯罪として立件できるか否かは別の話になる)。
最も賭けをして遊ぶ立場の顧客からは、下記リスクがあるといえる。
① 情報の非対称性を悪用する不正・いかさま、被害にあった場合の救済の無さ:
実際のゲームのシステムが公正で、確率的に勝つ可能性があるのか、ソフトウエア上の作為がなされており、騙されて常に負ける仕組みとなっているかを顧客は知ることができない。顧客はネット上の事業者の誠実性や公正さを知ることはできず、いかさまか、まともなビジネスかを判定できにくい。よって騙されることもある。但し、事業者が外国にいるとすれば、これを訴えて、救済を求めることはまずできない。騙され損になるわけである。
② 未払いリスク・払い戻し不能リスク:
顧客は例え大勝ちしても、ネット事業者が確実に勝ち分を支払ってくれるかという確証や保証があるわけではない。勝ち分を後刻クレジット・カードに支払ってくれるか否かは解らないリスクを抱えることになる。例えば、単純に支払をしないケースもありうる。あるいは、簡単にサーバーをシャット・ダウンし、別の事業者名で新たにネットを立ち上げれば、負けを踏み倒すこともできる。預託した資金も戻らない場合がある。顧客はこれら事実すらチェックする手法は基本的にはもっていない。
③ 個人情報遺漏リスク:
廉潔性が担保されていない海外ネット事業者の場合、クレジット・カード情報や、個人情報、ネットのメール・アドレス等が盗用されたり、不適切に利用されたりしてしまうリスクはある。悪意をもって情報を盗用された場合、なす術がなくなる。
上記いずれも、顧客にとってのリスクの本質は、賭博行為を提供する事業者の清廉潔癖性(Integrity)並びに誠実さ(Probity)にある。サイバー世界におけるネット賭博事業者は、大手企業が提供主体となり、しっかりとした国の規制機関のライセンスを取得し、システムの公正さに関しても監査を受けたサーバーから発出される場合もあれば、何処の国の企業で、如何なる規制を受けているのか、受けていないのか全く身元がわからないこともある。後者の場合には、顧客が被害を受ける可能性が高くなってしまう。クレジット・カードによる支払いは、事業者がライセンスを受けている国へとクレジットされ、その国で売り上げに課税されることになるが、場合によっては税がかからなかったり、税率がゼロに近かったりする国も多い(実態としては、海外に居住する賭博事業者に対し、サービス提供の対価として、クレジット・カードで決済するという構図になる)。結果、投資費用や固定費用を縮減しつつ、誰もが、気軽にネット賭博の運営事業者となれる状況が生まれている。この世界には既に、ソフトやサーバーを提供する一種の卸事業者や仲介事業者等も存在し、ネット賭博事業者になるためには、若干の資金さえあれば、極めて小人数で、誰にも認知されない形で事業ができる可能性がある。この状況がリスクを増すことになる。例えばやくざ組織が資金源確保の為にかかるオペレーションに手を出す可能性は零ではないからである。