インターネット・カジノを利用する場合、顧客は、当該サイトからまず一定の個人情報をインプットし、登録することを求められ、このステップを終了してから、初めてゲーム・ソフトをダウン・ロードできるという手順になることが通例である。ネット賭博規制のある国の事業者は、この過程で無原則で顧客を受け入れているわけではなく、違法となる国からのアクセスや、未成年者を特定化し、一定の判断のもとでアクセスを制限し、顧客を選別したり、顧客を保護したりする仕組みが実践されている。勿論完璧な解決策とはいえないが、顧客を特定し、顧客が違法な国や地域からアクセスしているのではないか、あるいは未成年者が関与していないか等の検証は、(顧客にとり解らない手法で、かつ瞬間的に)胴元がシステムを利用しながら実施していることになる。
これは下記の如き手順になる。
① 内部管理手順:
全てのネット上の取引は、データとして記録することができるため、トレース可能でかつ第三者による監査が可能となる。よってシステム、手順、記録等を第三者が監査することを前提に、データを記録させ、その改ざんを禁止することにより、法順守を担保することも可能になる。この為にサーバーを自国に設置させ、ハード・ソフトを含むシステム全体を認証の対象にする。場合によってはオンラインにより全ての情報を共有したり、規制当局が事業者サーバーを任意にトレースしたりできる仕組み等も可能になる。逆説的だが、全取引記録のトレーサビリテイという意味ではネット賭博は陸上設置型カジノ賭博よりも遥かに透明性が高い。
② 顧客検証手順:
顧客は自らがデータを登録しない限り、ゲームには参加できない。データインプット画面で顧客からクレジット・カード情報等個人情報を取得するが、この情報を利用し、顧客を検証することができる。これは下記手順から構成される。
(ア) 表面情報検証:
国をグループ化し、禁止領域・国を設定する。ネット賭博が禁止されている国の顧客からのアクセスを排除するという考え方になる(申告ベースでまず排除し、IPアドレスで再チェックするという考え方をとる)。IPアドレスが禁止国からのものであった場合、排除され、以後の手順を踏めなくなる。
(イ) 顧客地点検証:
顧客のIPアドレスをロケーションに関するデータ・リソース・プロバイダーのデータと比較して、検証する(米国等の場合QUOBAというカリフォルニアの民間会社のデータ・ベースを用いることが多い。これにより、法的に許容されている国か否かをチェックできる。恒常的にデータをアップデートしており、IPアドレスがどこで発行されているか、どこにコンピューターがあるかをチェックできる。また、IDデータとデータ・ソースの情報をチェックし、不適切な顧客である場合には、拒否できる)。ゲームをネットで提供する側のリスクとして、一定顧客を排除するシステムを構築していることになる。
(ウ) 関連金融機関検証:
クレジット・カードの最初の6けたの数字は銀行コードであり、この銀行コードをチェックし、どの国の如何なる銀行を利用しているかをチェックする(決済の前にまずクレジット・カード番号情報がいる)。この情報を上記QUOBAの情報と相互チェックすることが目的で、カード発行国とIPアドレスの国が一致しなければおかしいということになる(法的に可能な国のクレジット・カードでも、例えばIPアドレスがそうではない場合には拒否される)。
(エ) 年齢・居住地検証:
二つのデータ・リソース・プロバイダーからの情報を得て、検証する。例えば大手のデータ・リソース専門会社を二社起用し、この二つのソースを用いコンピューターでリスクの度合いをチェックする。
(オ) 最終評価:
上記チェックの結果、スコアリングをして、拒否ないしは受容の最終的判断を下すことになるが、最低許諾スコアを設定し、一定の点数を取得しなければ前に進めない仕組みになる。年齢、場所、財政的情報で一定点数を取得しなければパスできない。例えば75-100は許諾されるが、63ならば、人間が介在し、マニュアルで個別検証をすることになる。
(カ) 個別検証・評価:
上記(オ)までの手順は自動的にかつ瞬時に行われるが、必要な場合、人間が技術的なトレースをすることになる。顧客が登録に通らない場合、ファックス、電子メール等でパスポートや免許証などの追加情報を取り、情報が有効か否かを再チェックすることをいう。
③ 顧客保護対応策(依存症対応策):
顧客自身が利用金額の限度額を設定できる(利用上限額をヒットすると、それ以降を中止するようなメッセージを送ることになる)。完璧ではないが、かなりの知識の集積が行われており、顧客の行動を分析することにより、依存症になりかける前に積極的に働きかけるという仕組みが今後生まれる可能性がある。
ネット賭博では、顧客の国、場所の確認に関してはおそらく陸上設置型のカジノと同等レベルあるいはそれ以上の情報取得と検証は可能で、財政状況のチェック等は逆にネットの方が効果的になる(必ず賭ける前に預託をすると共に、カードから顧客の与信状態を確認できるからである)。一方、顧客保護に関しては、現状は完璧とは言えない状況になる。また第三者が正当なクレジット・カードを不正に利用した場合には、顧客を保護できないことになり、この点は、インターネットは、仕組みや規制の在り方次第では、陸上設置型と比べると弱点になる。