我が国では賭博行為はそもそも刑法上禁止されている以上、インターネット賭博をこと更、あらためて禁止するための制度や規範は不要と考える意見が(一部行政府内部に)ある。制度的には、法の執行を考えず、何もしないという立場からかかる発想がでてくるのだろう。単純に「禁止」と制度上なっていても、法の執行が現実になされない仕組みであれば制度としての意味がなくなってしまう。また、どう法が執行できるのか、何が違法となるのかが明確ではなく、条文上は曖昧であったり、行政府の解釈に委ねる立場を取ったりすれば、訴訟が生じた場合には単純に解決できなくなる。かかる理由により、インターネット賭博を禁止したり、規制したりしようとする様々な国は、その殆どが新たな立法によりこれを具体的に、かつ明示的に禁止したり、規制したりする規定を設けることを志向し、現代社会における技術の進展に対応できる制度の枠組みを構築している。この場合、通信やコンピューター技術の発達が、賭博行為に如何なる影響をもたらすかという現実を認識した上での制度設計が必要となる。もっともなんらかの制度や規制を設けても、必ず抜け道ができてしまい、サイバー世界は技術的に管理したり、効果的な規制をしたりすることが本来難しいとする考えも一方の極には存在する。
但し、考え方や手法次第では、ネット規制は有効になることもある。この場合、まず着目すべき前提は、インターネット賭博とは複数の主体が様々な手法、技術により介在して、初めて一つのオペレーションとして完結できるという事実にある。主要な関与主体とは、インターネット賭博サイトを提供する賭博事業者、一般顧客に賭博を含むネットへのアクセスを可能にするインターネット・サービス・プロバイダー、サイトを検索できるサーチ・エンジン、サイトへのアクセスを可能にするネット広告、賭博の賭け金や勝ち金を決済する銀行やクレジット会社等の金融事業者、実際に賭けごとをする一般消費者等になる。これら一連の主体が存在し、全体が機能しているわけで、この一部が無くなった場合には、インターネット・カジノはうまく機能しない。技術やシステムの発展は消費者たる顧客と賭博事業者の間に様々な主体を、消費者には解りにくい形で複雑に関与せざるを得ない現実をもたらしている。インターネット規制の難しさは、この様に、賭博サービスの提供が単純に1対1(胴元対顧客)の関係で提供されているわけではなく、複数の主体が介在して、サービスが提供されていることにある。一方、逆にこれら主体の内、規制が最も効果的になる主体を選別的に取り上げ、これを規制や罰則の対象とすることにより、禁止制度や禁止規制を効果的に、構築することも論理的に可能になる。
一般的には、インターネット賭博を規制・禁止する考えには下記の如き選択肢がある。
① 賭博サイト運営事業者規制:
米国の既存の州法にあるが、ネットで賭博行為を提供する事業者とこれに参加する顧客を違法とする単純な伝統的考えである。但し、これでは、州(国)外よりネットを通じ、サービスを提供するサイト運営事業者を効果的に摘発することは難しい。かつ賭博行為をする顧客を特定化することもまず難しい。法の執行はまずできにくい側面がある仕組みになる。
② インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)規制:
プロバイダーの機能とは、ネット上の情報へのアクセスを可能にする枠組みを顧客に提供する中間的な介在主体である以上、プロバイダー自体は賭博行為とは何ら関係ないわけで、本来犯罪の対象にはなりにくい。但し、これを規制の対象とすることで、顧客とサイト運営事業者の関係を断ち切ることができる。かつプロバイダーは外国ではなく、必ず国内に設置されることが通例となるため、コントロールしやすい(米国では公安当局や警察が電話会社に指示して特定顧客の電話回線を切断することができる。プロバイダーをネット上の電話会社とみなし、この考えをインターネットにも適用し、不良サイトをブロックする、あるいは、排除する義務等をプロバイダーに課すことになる。違反や逸脱行為には、罰金を課したりする)。もっとも、過度にプロバイダーを規制することは、ネット社会を委縮させることにも繋がりかねない。自主規制でこれを行うという考えもあるが、この場合には、効果の程は未定であろう。
③ サーチ・エンジン・広告規制:
有害サイトへのアクセスを可能にするのはサーチ・エンジンやサイト広告があるからで、何もない所から、アクセスすることは極度に難しい。これも外国ではなく、国内に存在することから、サービスプロバイダーと同様な規制が可能になる。
④ 金融取引主体規制:
ネットで賭博行為が成立するためには双方向で資金のやり取り(送金)が必ず必要となる。実際のリアル・マネーが動くためには、クレジット・カード会社やその代理人等の金融機関が必ず介在する。この実際の資金のやり取りを禁止することができれば、有効かつ効果的な禁止措置になりうると考えるわけである。具体的には金融機関に対し有害サイト関係の取引を特定化、ブロックし、支払いを禁止する義務を設ける考え等になる。
⑤ 一般顧客規制:
賭けごとに参加する一般市民を刑罰の対象にする考えだが、制度として存在しても現実的に捕捉できず、法の執行もできにくいというのが実態になる。この意味では顧客を罰則の対象にすることは極度に法の執行が難しい。
米国における「違法インターネット・ゲーミング執行法(UIGEA)」の考えは上記④をベースにした考え方になる。但し、違法取引をどう特定化できるのかという技術的な課題もあり、完璧を期することは難しい側面もある。一方この法の目的は100%禁止を実現することではなく、善良な国民や企業の行動を合理的に抑止することであって、これだけでも抑止効果は十分あるとする見解もある。