インターネット賭博に関係しうるサイトは数千、プロバイダーは600社程世界に存在するといわれている。かつ、この数は常に変動している。特定のサイトが違法か否かをチェックし、そのサイトをブロックすることは、ネットに対する一種の検閲的行為になってしまい、果たして現実的といえるか懸念も多い。インターネットを通じた商取引は、現代社会では、様々な経済活動に波及しているため、検閲や監視は自由な商活動を抑制することになる。例え違法であっても、ネット上のサイトをブロックすることは単純にはできにくくなってきていることが現実でもあろう。
インタ-ネットによる賭博とポルノの提供を同一視することは好ましくないし、本来議論は異なるべきだが、インターネット・サイトをブロックするという技術的、制度的な観点からは、この問題は類似的側面が多く、両者を比較、検討することにより、如何なる問題が生じうるかが解る。
我が国では2000年代末以降、インターネット上で児童ポルノが自由に放置され、閲覧されていることが社会問題になり、政府内部でもこの問題に対し、内閣府では2010年以降、「自動ポルノ排除対策ワーキングチーム」(議長:大島内閣府副大臣)を設け、検討にのりだすと共に、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」においても同じ問題が議論されてきた。論点となったポイントは、警察庁は関連する業者の社会的責任としてブロッキングを実施すべしということになるが、一方総務省は、通信の秘密を侵しかねないとして慎重な立場をとった。後者は、電気通信事業者法第4条第1項にある「電気通信事業者の取り扱い中に係わる通信の秘密はこれを侵してはいけない」を根拠とし、個人情報の取り扱いにはそもそも慎重な立場をとる。一方総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第6回会合では、最終的にインターネット上の児童ポルノ強制遮断(ブロッキング)を導入することでネット接続事業者(プロバイダー大手+検索エンジン事業者)が自主的な試みとして実施することが合意された。政府はこれを受け、2010年10月7日、ブロッキングの導入を柱とする「児童ポルノ排除統合対策」を閣議決定している。
上記を受けて2011年4月11日により機能し始めたのが、中立的な第三者機関として設けられた民間団体である「一般社団法人インターネット・コンテンツ・セーフテイー協会~ICSA」である。同協会が、有害サイトを特定し、所謂ブラック・リストを会員(プロバイダー並びにサーチ・エンジン事業者等)に配布し、プロバイダー・レベルで当該サイトをブロッキングすることになる。尚、有害サイトに関する提供は、日本におけるインターネット上の違法・有害情報の受付窓口である「インターネット・ホットライン・センター」から受けることになる。同センターの運営は、やはり民間団体である財団法人インターネット協会がこれを行っているが、2006年6月1日より、運営を開始しており、一般からの通報を分析して、違法情報や有害情報と判断した場合は、上記協会に情報を提供し、対応を依頼すると共に、警察庁にも情報提供する体制がとられている。違法・有害情報該当性の判断が難しい場合には、弁護士である法律アドバイザー等の専門家と相談の上、判断を行っている模様である。
一方、遮断するブラック・リストを実際に作成する協会(ICSA)は、①明確な基準に基づき運用されること、②問題のないサイトが誤ってリストに含まれた際の意義申し立て手順を設けて透明性を確保すること、③リスト作成・管理にあたり、民間以外の意志が入り込む余地がないようにすることなどが求められた。また、制度上の解釈としては、ブロッキングの対象はあくまでも制度上は、「緊急避難」(刑法第37条)に限定して例外的に認めるという考えになり、緊急避難に基づく、プロバイダーによる業務上の「正当行為」(刑法第35条)という解釈でその行為が正当化されるという考えに基づいている。よって、何でもブロッキングできるわけではなく、画像の内容が著しく被害児童の権利を侵害するものであること、画像の削除や掲載者の摘発といった他の対策が容易にとれない海外サイトであることなどが要件となっている模様である。
さて、インターネット賭博の場合だが、物理的にブロックすることは上記と同じで可能となるだろうが、賭博行為の場合にはポルノ等と比較した場合、社会的な危害は遥かに低いと共に、一方で類似行為や賭博行為が正当化される制度的枠組みが存在している以上、何が違法で、違法でないかの判断基準は極めて微妙になる分野になってしまう。インターネット・ホットライン・センターもネット賭博を違法対象例として列挙していないのはかかる背景があることによると思われる。諸外国ではプロバイダーによるブロッキングを法律上の義務としている国も存在するが、ブラック・リストの作成とアップ・デートに関しては、同様に様々の問題を抱えているのが現実の様である。