自国民を保護するためにインターネット賭博を認可制にして認めるという考え方を取る国は先進国、かつ一定の賭博市場が自国にある場合が多い。逆に他国の国民に対し、インターネット賭博サービスの提供を認可する国の過半は、低い税率を売り物に、海外企業の投融資を誘致する小国であることが多い。インターネット賭博の提供は場所を選ばす、比較的小規模の投資で、かつ固定費・変動費も、必要となる職員も限られた商行為となるために、誰もが参入できやすい業であるといえる。だからこそ、好ましくない組織悪や犯罪組織がかかる産業に参入してしまう素地とリスクがある。低課税国は、企業誘致や税収確保のみが目的であるために、単純に数を増やす性向が強く、どうしても事業者の適格性判断や免許判断基準の在り方、あるいは参入規制が極度に甘くなる可能性が高い。また、同様な理由から税率も極めて低いか、無視できるほどの費用で運営行為が実現できるという国々が過半となる。
税費用という観点からこれらの軽課税国の状況を見ると下記になる。
① マン島(Isle of Man):
アイリッシュ海に位置する自治権をもった英国の属国(Crown Dependency)である。外資を誘致してEビジネスを展開できるあらゆる経済的なインセンテイブを提供している。機械設置、市場開拓、企業移設等の投資費用に対し、40%の財政支援(補助金)があり、かつ職員教育には50%もの財政支援が供与される。ネット賭博に関する年ライセンス料も£35,000と安く、申請料は£1,000。英国内の顧客からの賭けごと収益には総粗収益の15%が課税されるが、マン島国内の顧客の場合は10%、その他の国の顧客の場合には1.5%と極めて低い。企業所得課税は零で、かつ付加価値税は課税されない。
② アルダニー(Alderney):
チャネル・アイランドの北部にある英国の属国である。ネット賭博ライセンス申請に際し預託金£15,000が必要で、審査・調査費用はこの中から支出され、余れば返却、足りなければ追加支払いになる。年度毎にライセンス料£75,000の支払い義務があるが、総粗収益に対する課税はない。付加価値税もなく、個人所得税も最高率20%と極めて低い。企業所得税の最高税率は20%だが、これを廃止しようとする動きがある。
③ ジブラルタル(Gibraltar):
ジブラルタルは、地中海にある英国の海外領土の一つとなるが、法的にはEUの一部と判断されており、通信手段の良さ、言語の融通性、英国慣習法をもとにした法制度が完備されていることなどのメリットがある。ネット賭博はライセンス付与の対象となり、申請料は£2,000、ゲーミング税はスポーツ・ベッテイングの場合、売上に対し1%、インターネット・カジノの場合ゲームのイールド(ドロップ)に対し1%で最低納税額は£85,000に設定されているが上限も£425,000に設定されている。また付加価値税は存在しない。非居住者により所有され、ジブラルタル国民に対し業務をしない企業は、税法上の一定の減免措置が取得でき、企業所得税、金利配当源泉税が控除されるか、一部が交渉の対象になる(年£225の支払いが必要である)。
④ アンテイグア・バルブーダ(Antigua & Barbuda):
カリブ海の小共和国であり、インターネット・カジノの中心国ともみなされている。ライセンス費用はオンライン・ゲーミング賭博で$75,000、オンラインによるパリ・ミュチュエル賭博の場合は$50,000になる。理論的には総粗収益の3%がゲーム課税となるはずだが、どの運営事業者もこれを支払っていない模様である。外国投資事業は15年の免税措置があるためで、企業所得課税40%もこれにより免れている。
⑤ キュラソー(Curacao):
オランダ領アンテイール諸島の行政上の中心国になる。民間事業者であるCyberluck Casino Curacao NVという企業がマスター・ライセンス権を保持し、一定の資格を保持する主体に無制限にライセンスを供与できる仕組みとなる。ライセンス保持者は、月毎に£3,000のライセンス料を課され、更に所得課税上限2%を課されるが、売上に対する課税はない。事業者にとり規制順守の費用はほぼ零に近い。
⑥ カナダ・カナワケ・モホーク部族:
カナワケ族はカナダの原住民部族だがMohawk Internet Technologiesという部族所有の企業がマスター・ライセンスを保持し、サブ・ライセンスを付与すると共に、サイト運営に必要なサービスを提供している。ライセンス費用は年10,000カナダ$、申請費用は20,000カナダ$でこれは5,000カナダ$の返還不能預託金を含む。売上、所得等その他の税はない。
上記の内、ライセンス申請をする事業者の審査には一定の手順をかけ、申請企業の適格性やシステムを監査する体制をとっている国もあるが、形式審査のみという国も多く、制度や規制の在り方に透明性が欠ける国も多いのが現実である。表面的な許諾を得ているか否かではなく、如何なる適格性の審査や公平性を担保する仕組みが実践されているか否かがポイントでもあるが、これらの国々の場合、実態が無いことも多く、表からこれを検証することは難しい。