では主要先進国における課税状況はどうなっているのであろうか。軽課税国に比較し、英国やマルタ、フランス、イタリア、その他のEUの国々では、より厳格な規制や監視のシステムを採用している国が多い。勿論この場合、当然のことながら規制の費用は高くつくと共に、事業者が負担する税も高くなる。この負担は、安心、安全、健全さを担保するための費用と考えるべきなのであろう。但し、その考え方は国毎に異なり、ここに何らかの法則性を見出すことは難しい。
各国による税率の設定に際しては、
① 外国運営事業者を自国に呼び寄せ、一定の投資と事業のベースを自国に設置させるための企業誘致施策、
② サイバー世界における他国との競争対抗施策、
③ 市場性と企業にとっての担税力、
等の側面も判断に影響を与えていると想定されるが、多様な考え方が実践されている。主要国における税率は下記の如くになる(より厳密には様々なフィー、料金等も税率に換算すべきであろうが、下記はこれを考慮していない)。
ⅰ. フランス:
顧客賭け金(stake based)に対する課税で、スポーツ・ベッテイング、パリ・ミュチュエル競馬、ライブ・ベッテイングは7.5%,オンライン・ポーカーは 2%(勝ち負けに関係なく、賭け金額に対し、一定率を課税する考え方を取る)。
ⅱ. イタリア:
既存の賭博種に関しては、顧客賭け金額(stake based)に対する課税で、3% (オンライン・ポーカー)、5 % (その他の全ての賭博種)、2010年以降新たに認められた賭博種は事業者の収益(profit based)に対する課税とし、税率20%となる。
ⅲ. 英国:
事業者の勝ち分である総粗収益に対し15%(遠隔賭博・賭け事税)、競馬に関しては追加的に10%(競馬賭け事税)となる。但し、この税率はかなり高く、課税回避の為に、事業者が海外に逃げたことから、政府は2013年中に制度を変え、税率を低減する施策を検討中である。
ⅳ. マルタ:
賭け事の分類毎に異なり通常のオンライン・カジノは固定費で€7,000/月、固定オッズ賭け事は顧客賭け金(stake based)に対し0.5%、ゲーム課税は固定費で€1,200/月となる。
尚、上記はゲーム関連特別税でもあり、これ以外に企業所得税(例えば、英国では21%から28%、マルタでは名目35%だが、税還付等により実質的には5%以下になる)、職員に対する個人所得税(例えば英では2010年以降は50%、マルタでは35%)、付加価値税(例えば英では17.5%、マルタでは18% )等が賦課されるため、ライセンスを得る民間事業者にとり、国次第では、コスト面では大きな差異が生まれてしまうことになる。
これは下記状況をもたらした。
① 高課税国忌避行動:
一部英国株式市場に上場した大企業は、明らかに禁止的なほどに高い税率を課す英国を避ける事象が生じた。例えば英国に本拠をおいた大手ネット賭博上場企業の一部は、制度的にはEUだが、英国ではない税率の安いジブラルタルに、事業活動を移す事例が相次いだ。英国では現実に制度としてうまく市場参加者の興味をひきつけていないことは明確でもあり、政府内部で制度を変え、税率を低くすることが議論されつつある。
② 国毎の競争の激化:
自国民を規制の枠内でくくっても、自国の規制対象外のネット事業者が、サイバー世界から自国の国民にアプローチすることを避けることはできない。かつこれでは税金を取得できなくなる。この意味では、如何に一定の制度と規制の枠組みの中でネット事業者に合理的な条件を提示し、これらを自国に誘致するかの競争が、関係国間で生じてしまっている。
一国が高い税率を設定した場合、異なった税率で類似的なサービスを提供している他国との間でどう競争が行われるかということは大きな課題になる。場合によっては税の高い国から税の低い国へ、事業者自体が移転する可能性も零ではない(物理的には固定施設が限られるため、いとも簡単にできる)。税率の設定は、状況次第では事業者の逃避を促す動きにもなり、これでは当初の政策目的を大きく逸脱してしまい、何のための制度であったのかということになってしまう。この場合、国民の保護、健全なネット賭博の提供という制度の趣旨から乖離した現実が生まれかねない。インターネット賭博の危険性は、この様に、しっかりとした環境を備えた国と、必ずしもそうではない国が混在し、サイバー空間に共生していることにある。この結果、条件次第では、健全なシステム自体が機能しなくなる可能性は未だゼロではないということでもあろう。