賭博行為とは、本来目的志向性の強い遊びでもあり、特定の行為が提供されている特定の場所に行って、初めてその目的を実現できる遊興でもあった。競馬場、競輪場、競艇場とかカジノ等はそのためにある。一方、単純に賭博行為のみを楽しみたい顧客にとり、胴元が賭け事に参加するバンキング・ゲームとなるカジノとそうではないパリ・ミュチュエル賭博とでは、事情が若干異なる。バンキング・ゲームはカジノ施設に行き、初めて遊べるが、パリ・ミュチュエル賭博の場合には場外、即ち多様な場所で馬券や舟券等の投票券を購入することができる。胴元からすれば、利便性の良い所にセールス・アウトレットを設ければ、顧客は単純に競技に賭けることができ、売上は増える。顧客は競技をラジオ、ビデオ、テレビ、インターネット、携帯電話等あらゆる手法で実況を楽しむことができ、結果をリアル・タイムで確認できるわけで、必ずしも競技場に出向く必要はない。ましてや宝くじなどは、単純にセールス・アウトレットが身近にあるか否かだけの話でもあり、顧客にとっての利便性が高まれば、確実に売り上げを増やすことができる。
上記は、インターネットを効果的にパリ・ミュチュエル賭博のセールスのツールに用いる動きをもたらした。パリ・ミュチュエル賭博とインターネットとの間には補完性があり、本来お互いに相性が良い。競馬等の競技は、映像や情報はネットを通じてライブで顧客に提供できるとともに、賭けごとも支払もクレジット・カードで同じコンピューター画面から決済処理ができる。これは、個人のコンピューターが実質的なセールス・アウトレットになることを意味し、魅力的な競技を提供することができれば、インターネットは、顧客の数を飛躍的に増大できる強力なツールになることを意味している。宝くじやロッテリーくじも同様であって、何も売り場にわざわざ出かける必要もなく、インターネットにより、いつでも、どこからでも、いくらでも、購入することが可能になる。顧客にとってのアクセスと利便性は飛躍的に向上する。この意味では、所謂、競馬等の競技賭博、ロッテリー、宝くじ等伝統的なパリ・ミュチュエル賭博の分野では、インターネットの登場は、既存の売上を効果的に向上させ、決済を簡素化するツールとして有効に利用されつつあるのが現実である。一国の法律の枠の中で、許諾を受けた事業者が、売上を伸ばすために、インターネットを販売促進のツールと考えることには、全く矛盾はなく、極めて合理的な考えでもある。また、インターネットの使用が、特段問題にならないのは、単純に費用がかからないセールス・アウトレットの増加と捉えることができることと共に、インターネットを通じたソフト・ウエアでゲームを提供するわけではなく、限りなく人為的な操作のないインターネットの長所のみをうまく活用するという考え方だからであろう(もちろん、馬券や投票券が無秩序にたくさん売れることや未成年等不適格者がかかる賭博行為にアクセスしてしまうことは社会的問題をもたらすと考えるのは別の観点の議論になる)。
一方、バンキング・ゲームとなるカジノの場合にはそうはいかない。この場合には、カジノで提供される類似的な遊びをインターネットという全く異なった手法、環境で、顧客の任意の場所でソフト・ウエア自体が生み出す賭け事をシステム的に提供していることになる。これは、一定の市場において、お互いに市場で競合し、顧客を奪い合うことを意味する。よって、伝統的な陸上設置型カジノとインターネットとの相性は必ずしも良くはない。
ややこしいのは、伝統的な考え方では、パリ・ミュチュエル賭博はあくまでも国内市場を対象にし、特定の独占事業体や国(あるいは連邦制の場合には州)が、独占権を保持し、馬券や舟券、あるいは宝くじを独占的に自国民に販売してきたということにある。この場合、インターネットを用いて、顧客を募る行為は、諸外国の顧客をも惹きつけることを可能にしてしまう。また、これは逆に、他国の事業者がインターネットを用いて、自国の国民に他国や自国の宝くじや馬券を販売することもできることを意味する。この場合、国民は支出はするが、賭博収益も、税収も全て他国の事業者に奪われてしまうことになってしまう。制度的に独占権が保護されている場合、かかる状況は、国、国内の独占事業者、海外における類似的事業者及びインターネット賭博事業者との間で紛争、係争をもたらしかねない。事実EUでは過去10年間にわたり、様々な係争事由や訴訟事由が頻発することになった。もっとも係争の争点は、国家による独占の可否であって、インターネット賭博の可否ではない。