技術の進展や、市場における顧客の参画や支持、また様々な国が制度的にインターネット賭博を認知し始めたという事実は、もともと存在したインターネット賭博事業者のみならず、他の新しい参入者をこの市場に惹きつけつつある。伝統的な陸上に設置されている米国のカジノ事業者は、厳格な州法の下で存在し、過去、インターネット賭博市場への参入には必ずしも積極的ではなかった。例えば米国では、制度的に灰色の領域であったこと、既存の経済的なインタレストが大きく、グレーな分野への進出をすることで既存のビジネスに対する影響を憂慮し、躊躇したこと等がその背景にある(もし親会社企業が、違法と見なされる行為に関与した場合、米国規制当局の判断次第では、親会社企業自体のカジノ・ライセンスが取り消しになるリスクがあったからである)。
もっともこの基本的な趨勢は2010年以降、若干変わりつつある。これは下記事情による。
① インターネット賭博による既存賭博市場への浸食効果:
市場全体のパイの中で、インターネット賭博自体が明確に陸上設置型賭博を主業務とする事業者にとり、明らかに競合相手になりつつある状況が生まれている。かかる事情により、何らかの競争的対抗手段を取らない限り、競争に劣後する可能性が生じてきたという背景がある(勿論現状米国では制度的に禁止されているとはいえ、世界市場全体のパイの中で競争は現存する。ネットによる双方向的な競馬等は米国でも認められており、顧客や市場自体がネット世界に深く関与しつつあるという状況がある。また連邦法上は禁止の対象であっても、諸外国では賛否が分かれ、米国内部でも一部州では州レベルでネット賭博導入の動きが存在する以上、将来的な展開をも見据えた事業展開を迫られているという背景もある)。
② 段階的な制度的信頼度の向上:
米国では連邦制度としては、サイバー賭博に対しては敵対的で、これを規制する連邦法が2006年に成立し、禁止の対象となっている。一方英国をはじめとする欧州先進国・オセアニア、一部アジアの国々においては、インターネットを通じた賭博提供サービスに関し、規制緩和が生じ、一部の賭博種に関しては、合法的に提供できるような制度的枠組みが段階的にできつつある。これにより、ネット賭博そのものに対する制度的信頼度が増えたことは間違いない。これが新規参入を促す大きな要素ともなった。
③ 潜在的成長性に対する戦略的な着目:
インターネット賭博市場自体は成長過程にあり、世界レベルでは毎年二けた台の高成長を継続している。この成長分野に対し、ビジネス戦略として、何らかのとっかかりをつけておかないと、成長に乗り遅れるリスクもある。この成長の果実を今から取り込むという主要企業の意思が明確になり始めたという背景もある。
かかる事情により、主要な米国カジノ事業者がその100%子会社を経由し、欧州等でライセンスを取得したり、ネット専業事業者と提携したりして、米国外の国民にかかるネット賭博サービスを提供することが2009~2010年頃より始まった。例えば米国大手のCaesars等がその典型である。最も同社の場合、一種のソフト・ラウンチで、実質的にはこの分野で先行している888.comと連携し、多種多様のサービス・ゲーム種を提供し始めた。この場合、米国のユーザーに対しては、ブロックされる仕組みを前提としている(英国の888.comの子会社であるDragonfishを通じ、888のソフトウエアを利用して、オンライン・カジノを展開するもので、英国においてライセンスを取得した。2010年5月米国ネバダ州規制当局はこのパートナーシップのあり方に付、調査を開始、2010年6月に同州のライセンス事業者は、米国人から賭けを募るオンライン賭博事業者とは距離を保つべきことを書面で示唆しており、ケースバイケースでかかる関係性を規制するというスタンスを示した。その後、2011年司法省による見解に伴い、州規制当局は方針を転換、2011年にはネバダ州議会はインターネット・ポーカーを認める法案を議決し、現在迄に二十数社を超える事業者がライセンスを取得するに至っている。これに伴い、上記888.comも2013年3月に同州でライセンスを取得した。2013年2月にはニュージャージー州でもインターネット・カジノを認める法案が議決されたが、これは既存の陸上設置型カジノ事業者を対象とするため、自らかかる業務を担うか、あるいは既存のネット事業者とパートナーシップを組み事業展開をする可能性が喧伝されている)。
その他、アジア系資本であるマレーシアのGenting社は、英国のブック・メーカーをM&Aで取得し、この英国企業経由、ネット市場への参入を実現している。また日本のパチスロメーカのセガサミーは、英国の100%子会社(Sega Games Ltd) 経由、2009年に、SegaCasino.com及び SegaPoker.com というサイト経由、ネット賭博市場に進出した。Sega Gamesの場合は、カリブ海の英国領土であるアルダーニーからのライセンス取得になる。
この様に、①多種多様な企業がネット賭博市場に新たに参入しつつある(陸上設置型カジノ事業者のみならず、システム事業者や機械メーカーも市場に参加している)と共に、②市場自体は急速に拡大、かつ参入者も多く、技術の進展や新しいゲームのパターン等の側面で競争が激化している。明らかに段階的に新たな市場が構成されつつあり、多様な参加者がしのぎを削る競争的環境が成立しつつある。