非合法インターネット賭博執行法(UIGEA)は共和党ブッシュ政権の保守的な雰囲気の中で2006年に成立した法律である。その施行細則は2010年に制定され、施行されるようになり、現在に至っている。一方、この法律は制定当初より、現在に至るまで、その実行性を疑問視する声や、具体の規則の実効性に関しても、様々な意見があり、如何に効果的に法律が執行できるか否かは法施行時点から継続的な課題となっている。
もっとも、その後共和党から民主党に政権交代となり、この法律に反対する超党派の議員たちは、法が施行される前の時点で、この法の執行を2010年12月まで延期させるとともに、新たに、オンライン賭博を規制した上で認める法案を議会に上程しようとした(成立すれば上記法律に代替され、禁止ではなく、逆に規制の対象にして、認め、税金を徴収するという考えになる。後述する如く、この法案は審議の目途はたたず、廃案となった。2010年の法案審議途上の委員会では、UIGEAに拘わらず、米国人は2009年120億㌦の資金をオフショアのネット・サイトに預託し、1000億㌦以上の賭けをしたという発現が賛成派議員よりあった。正当に課税すれば420億㌦の税収になったという。)。この法案は、「インターネット賭博規制・消費者保護及び税執行法案」(下院法案2268号 )(Internet Gambling Regulation and Tax Enforcement Act)と称し、議案の発案者は上院財政サービス委員会の委員長である民主党のバーニー・フランク議員並びに共和党ピーター・キング議員である。時代は、民主党、オバマ政権となり、ネット賭博を規制した上で認めるのか、あるいは現行法通り、禁止するのかに関しては米国議会でも議論は割れ、どっちにころぶのかは微妙な状況でもあった。尚、昔から、民主党リベラル派は、賭博行為は禁止ではなく、許諾し、規制の対象にすべしという風潮が強い。
可決されなかった法案となったが、内容が類似的な様々な法案を上程する勢いも存在し、如何なる考え方かを知ることは、米国の動向を把握するには必須の要素になる。この概要は下記になる。
- 規制者としての任は連邦財務省がこれを担う。この法以上に個別の州、先住民部族が更なる制限をかけること、あるいは、ネット賭博自体を禁止する権利を保持することを前提とする。即ち、強制・義務ではなく、州の判断を尊重し、州の判断で適用除外を選択(Opt Out)できる。
- 既存の連邦、州、部族の制限に適合したライセンス制度を導入し、ネット賭博関連運営事業者、経営者、主要職員は全てライセンス取得を義務づける。ライセンス判断基準は通常のカジノと同様、厳格な内容を前提とする。
- 州政府が適用除外を選択する場合には同州の住民はネット賭博には参加できないようにすることが事業者に義務づけられる(決済口座の情報から顧客の住居を特定化し、ブロックをかける技術を想定しているものと思われる)。
- 未成年者並びに依存症患者による賭博を防止し、彼らを保護できる施策を明示することがライセンス付与の条件となる(何らかの判断基準によるフィルタリング技術の採用を想定しているものと思われる)。
- 全てのライセンス申請者は背面調査の対象となり、申請者は清廉潔癖性を立証する義務がある。ライセンスは5年となり、サーバー、システムは一定の技術標準に合致し、かつ国内に設置され、検査・監査の対象となる。また詳細運営データや勝分、収益等に関し、財務省への報告義務を課す。
- オンラインによるスポーツ・ベッテイングは禁止の対象になる。(欧州と異なるが、従来の米国の制度的枠組みを踏襲するという考えなのであろう。プロ・アマ・スポーツ団体からの反対が米国では極めて強いからである)。
- 課税に関する付帯法が存在し、全ての顧客による賭け金預託(デポジット)金額に対し2%のフィーを徴収(deposit based),全ての顧客の賭け金額に対し0.25%の税を徴収し(stake based)、毎月末政府に支払う(預託金額に対する課税と賭け金額に対する課税の総和になり、事業者の粗収益に対する課税ではない。まだゲームをしていない状況における顧客の預託金で、賭ける前提として一定率を課税する。かつ賭けた時点で今度は賭け金に一定率を課税する。尚、この預託金に対する課税は、その他の税の代替として、州政府・部族政府との間で6%を上限として追加課税し、分担することを可能とする)。
- またライセンスに関する費用等は全て事業者負担となる。
興味深いのは、州によっては法の適用を禁止する場合、これを技術的に可能にするように特定州の住民からはアクセスできない技術的仕掛けを前提にすることや、未成年者、賭博依存症患者なども特定化する手法を考え、これを保護する技術的仕組みを前提にする、あるいはマネー・ロンダリングに関してもリスク・ベースでの対応措置を考慮するなどの手法により、一定のブロッキングやフィルターリングができうることを前提に法案が構成されていることにある。現代の技術ではある程度は可能なのであろうが、果たして完璧にできるのか、実行性がある考えといえるのかは若干の課題もあろう。但し、もし、認める法案が可決される場合には、かかる考え方になりうるという事例になる。