米国では1961年に制定された連邦「有線法」の規定が連邦司法省により広く解釈され、これがあらゆるインターネット賭博を禁止し、取り締まる制度上の根拠とされてきた。この有線法とはもちろんインターネット等が無い時代の法律で「スポーツ・イベント、競技に関する賭け事、賭博行為に関し、州際間で有線施設を用いて当該賭博行為に関する情報伝達をする者を処罰する」という半世紀前の法律規定である。州法で規定する競馬等のスポーツ・競技賭博に関し、電話・電報等の手段を用いて他州から賭け行為を促し、顧客を横取りすること等を禁止することが本来の目的でもあった。当時は犯罪組織がかかる行為に関与していたという議会証言がある。米国では賭博法制を認めるか否かは連邦政府ではなく、原則州政府の管轄になり、連邦法上の規定は例外的なのだが、この古色蒼然とした曖昧な連邦法の規定が拡大解釈され、サイバー世界におけるインターネット賭博を取り締まる根拠として主張されてきたわけである。A地点とB地点との間で情報伝達をする電話、電報等の施設が有線施設ということなのだが、電線等必要もないインターネットも所詮情報伝達の手段ではないかというかなり一方的な解釈になってしまう。ところが2011年12月23日、連邦司法省・法制局は、1999年にニューヨーク州及びイリノイ州から提起された法務解釈開示要請に対する見解(リーガルオピニオン)を発表、従来同省犯罪局が採用していた見解を大きく修正する立場をとることになった(2011年9月20日付連邦司法省・法制局(Office of Legal Counsel)の司法長官補による同省犯罪局にあてた法律上の解釈見解書で「ロッテリー・チケットを州内の成人に販売するためにインタ-ネットを使用し、かつ当該取引処理の為に州外の事業者を起用することが連邦有線法に違反するか否かに関するイリノイ州およびニューヨーク州の質問に関する法務意見書」。但し、公表は同年12月末となった)。
ことの発端は、イリノイ州、ニューヨーク州の政策当局がインターネットを通じて州内の顧客にロッテリー・チケットを販売することを考えたことにある。自らの州民のみを対象とし、州際間での販売をしないことを前提に、連邦法上の制約はないと判断していたのだが、ネットを通じた顧客管理情報が(州外に存在する)システム管理事業者等の関与により州際間に跨り伝達することが予想され、これが連邦有線法に抵触するか否か、そもそもインターネットによるロッテリー・チケット販売は、連邦法上の規制の対象になるか否かを両州が連邦司法省に見解を求めたことにある。連邦司法長官補による司法省犯罪局に対する書面による見解は、同省・犯罪局が従来とってきた有線法の解釈を大きく変えるものとなった。
即ち、
① 連邦有線法の当該規定は、あくまでもスポーツ・イベントないしはその他の競技に関する賭け行為のみの情報伝達を禁止するもので、その他の賭け事や賭け行為を含むものではないこと、
② 両州により提案されたロッテリーがスポーツ・イベントないしはその他の競技が含まれていない以上、連邦有線法は適用されないと共に、ロッテリー・チケットの販売が州境を超えるか否かは同じ理由により無関係で有線法の規定には抵触しないこと、
という見解である。
この結果、顧客の対象を州内住民に限定するロッテリー・チケットを、インターネットを利用して販売することが連邦有線法に抵触しないことが明らかになると共に、これまで有線法の規定を根拠に、禁止、規制されてきたインターネット・ポーカー等その他のゲーム種も状況次第では連邦法に抵触しないと合理的に推論できることになった(連邦法に抵触しなければ、州法の権限でなんでもできるという論理になる)。もっとも、上記連邦司法省の解釈は61年連邦有線法の規定の解釈であって、より最近の連邦法となる2006年の「違法インターネット・ゲーミング執行法(UIGEA)」の規定にも同様に抵触しないのか、新たな解釈により、この二つの法律の間に矛盾が生まれないのか等に関しては一切触れていない。但し、連邦有線法では違法、だからこそ、連邦違法インターネット・ゲーミング執行法上も違法という論理が崩れたことは間違いない。もし、連邦法上、違法で無いならば、州法によりこれを制度化し、認める、あるいは州際間取引も可能になると判断し、かかる動きを取ることはこ当然の成り行きとなった。
この事実に基づき、州レベルでは一部インターネット賭博(特に連邦政府との係争が生じ難い対象としてオンライン・ロッテリーとオンライン・ポーカー)を認める動きが加速しつつある。イリノイ州は、上記司法省の判断に基づき、2012年3月に全米で初めてオンラインによるロッテリー・チケットの販売を開始した。これを契機にして、その他の州でも、州レベルでのオンラインによる限定的な賭博行為の立法化を目指す動きが一挙に生じつつある。また、オンライン・ポーカーも理論的には可能として、様々な州政府が立法化を検討しつつあるが、2013年3月までにネバダ州、デラウエア州、ニュー・ジャージー州が立法化を実現してしまい、2013年5月よりネバダ州でインターネット・ポーカーが同州民のみに提供され始めた。この意味では、ネット賭博全面禁止とする連邦政府・司法省の立場は明らかに崩れつつあり、制度上は大きな矛盾を抱える状態になってしまっている。但し、連邦司法省はこれら動きに関し沈黙を守っており、今後の展開がどうなるかはまだ明確ではない側面もある。