法律の規定と実際の社会において行われている経済活動に矛盾がある場合、あるいは既存の法律間で整合性や一貫性に欠ける規定があり、現実の経済活動を説明できない場合、これを是正しようとする動きが当然のことながら生じてくる。但し、単純な話にはならないことが多い。インターネット賭博の在り方も同様で、米国では矛盾の塊の如きものとなっており、複雑な歴史的、制度的背景があるために、矛盾を抱えながらも単純な解決策は無いという状態に陥っている。一挙に、かつ単純に、連邦法としての規制緩和を図り、ネット賭博を解禁するという方向にいくのではないかという意見もあるが、事はそう単純には運びそうもない。
連邦議会では、2011~2012年まで毎年のように、ネット賭博を連邦法レベルで規制することにより認めるという内容の法案が出されてきたが、賛成の多数派を構成することはできず、民主・共和両党の合意形成には至っていない。2011~2012年の第112連邦議会で提出された法案には下記等があるが、いずれも失敗している。
*法案HR2366号(Joe Barton議員提出法案、共和党、テキサス州):
「インターネット賭博禁止、消費者保護、UIGEA強化法(案)」 “Internet Gambling Prohibition, Poker Consumer Protection & Strengthening UIGEA of 2011”。連邦商務省がライセンスを付与できる有適格主体(州政府や部族政府等)を指定し、これら主体がネット賭博をライセンスにより認める仕組みを創設、州政府間での相互認証を認めるという考えになる。かつ連邦政府としてはインターネット・ポーカー監視機構(Office of internet poker oversight)を設立し、総合調整と監視を担うという案になる。考えとしてはUIGEA法を廃止せず、より効果的な規制にするよう是正しつつ、一部ネット・ポーカーのみは州政府等の許諾により認めるという内容でもあった。
*法案HR2230号(Jim McDermott議員提出法案、民主党、デラウエア州):
「インターネット賭博規制・税執行法(案)」”Internet Gambling Regulation & Tax Enforcement Act”。
内国歳入法の規定を変え、インターネット賭博を認めることにより連邦政府として預託金の2%を徴収、財務長官にその他税の徴収等の権限を付与し、税の使途等も規定する内容で、州政府によるネット賭博ライセンス付与を前提とし、連邦政府がこれに関与し、税を徴収するという内容であった。
* 法案HR1174号(John Campbell議員提出法案、共和党、カリフォルニア州) :
「インターネット賭博規制、消費者保護・執行法(案)」 “Internet Gambling Regulation, Consumer Protection and Enforcement Act”。
連邦法でネット賭博許諾ライセンスプログラムを設け、連邦政府財務長官に権限を委ね、連邦政府自らが規制者、監督者になるという法案で、ライセンス付与の詳細条件を規定する内容であった。
上記の他にも過去類似的な法案を継続的に提出してきたHarry Reid議員(民主党、ネバダ州)がKyl議員(共和党、アリゾナ州)と共同で2012年に法案を提出するという動きもあったが、様々な反対に合い、失敗し、法案は上程されていない。尚、2012年の連邦議会では、宗教団体National Association of Evangelicals並びに Southern Baptist Convention等)が反対勢力として登場し、ネット賭博立法化に強烈に反対する政治的なオルグを実施したという経緯もある。政治と共に様々な宗教団体や民間団体の反対運動がありうるということになり、この意味でも単純ではなさそうである。
連邦法でネット賭博を規定することに対する反論は、本来賭博行為の許諾は州政府の専権であって、連邦政府が関与する事項ではないとする根強い連邦政府と州政府との権限の在り方に関する議論になる。過剰な連邦政府の介入は州政府の権利への浸食とみなされるわけで、必ずしも好ましいものとはみなされていない。かつ、本来州政府が取得すべき税収が結局連邦政府の財源になってしまうのではないかという懸念も存在するようだ。勿論インターネットによる賭博行為は州境を越える概念でもあるため、例外中の例外ということなのであろうが、強力な主張になりきれていない。現状のままだと、連邦法上は曖昧な状態が継続し、州法ではそれこそ数十の異なった州法が生まれ、整合性と一貫性のない法制度になってしまうことは間違いない。
摩擦の少ないインターネット・ポーカーやスポーツ・ブッキングの世界では、今後とも様々な州において限定的にインターネットによる賭博提供が認められる趨勢にある。米国における現状は明らかに、連邦政府による何等かの行動ではなく、州政府による独自の規制、部分的許諾の方向に一挙に向かいつつあるといえる。この結果、連邦議会レベルでの法案構築の試みはほぼ全てが失敗し、急速にモメンタムを失いつつある。