マルタは人口40万人の地中海における小国で、観光や農業が主たる産業となるEUの一加盟国でもある。このEUの小国で、注目を浴びている産業がなんとインターネット・カジノ関連のビジネスになる。2005年レベルではわずか20事業者、税収規模は500万€レベルでしかなかったものが、2012年現在では、425事業者に増え、直接雇用で4,000人を雇用し、ゲーム関連税・ライセンス料等の収入は年2200万€に達している(2012年7月同国財政経済投資大臣発言)。マルタはEU諸国の中では最初にインターネット・ カジノのライセンス許諾を制度として制定し、認知した。制度としては2001年に制定された「ロッテリーその他のゲーム法」並びに2004年に制定された「遠隔ゲーミング規制」(Remote Gaming Regulation)により詳細が定められている。同法に基づき、全ての活動は大蔵省傘下のロッテリー・ゲーミング機構(Lottery Gaming Authority, LGA)の監督下におかれ、この規制機関がこの法と規則を所管する。同機構(LGA)は同国における全ての賭博行為の規制者でもあり、陸上設置型カジノ、アミューズメント機械、ビンゴ、ゲーム機械、ロッテリー、インターネット賭博、スポーツ・ベッテイング等を包括的に規制する。内、インターネット賭博が全体売上の45%以上を占め、最大かつ最も成長率の高い分野になる。機構の目的は未成年者、弱者を保護し、顧客の権利を守り、安全な環境のもとで、ゲームを犯罪活動から切り離し、責任あるゲームを提供する環境を保持することにある。
インターネット賭博に関するライセンス申請はまず独立した第三者機関による申請内容に関する第三者評価がなされ、この評価に従い、ロッテリー・ゲーミング機構(LGA)がライセンスを付与する形式をとる。査察官、監督官は45名。当局はライセンス申請者(個人、法人)につきInterpol並びにEuropolとも連携し、背面調査を実施する(経験、犯歴、経済的便益者等)。過去、不正、いかさま、マネー・ロンダリングに絡んだ者は当然排除される。マルタでは現在までに300以上の会社がライセンスを要請し、36社が排除され、125社に対してライセンスが付与されている(2009年のレベルで、80は現在暫定許可に基づき精査中。その他110社は現在申請を検証中というデータがある)。米国において、インターネット・カジノが禁止されたため、2008年から2009年にかけて、中米からマルタ島に本拠を移し、マルタ島にてライセンスを取得し、運営しようとするインターネット賭博事業者が増えてきたこと、EU域内でスポーツ・ベッテイング等のインターネット賭博が段階的に認められつつあるという趨勢に基づき、多くの欧州系事業者がマルタでのライセンス取得に走ったという背景がある。かつマルタは英国政府により認知されたホワイト・リスト国でもあり、英国より税負担が軽いことより、多くの大手企業がマルタに移転したという事情もあった。
これは、
① マルタは、タックスヘーブンや軽課税国ではないEUの一加盟国である。EU域内に正当な拠点を保持することは市場攻略やブランドを確保するためには最適であること。
② 既に実際のライセンス付与と実際の事業運営に関し、一定の実績があり、安定的な市場と判断されたこと(透明かつ、利用者にとって公正さが確保される許諾システムでない限り、市場や顧客の信頼を得ることはできない。この意味では、中米やカリブ海の軽課税国(タックス・ヘーブン)ないしは、国とはいえない英領ジブラルタル等と比較した場合、優位性を保持している。尚、英国は、マルタの後にインターネット・カジノの許諾を取り入れてはいるが、規制や手順はより厳格な制度を前提とした)。
③ 税費用は英国と比較し、かなり低い範囲に留まり、EU内では最も競争的な環境を提供していること、
などがオンライン事業者を惹きつけたものと想定される。事業者として、一国のライセンスを取得し、法的な正当性を保持しおくことは、顧客の信頼を取得するためにも重要な要素になる。この場合、清廉潔癖性を貫徹できる厳格な規制と監視、徴税義務などが透明的であることが重要になってくる。
但し、マルタの規制や制度がどう実際に厳格に施行されているか否かに関しては必ずしも明らかではない。下記諸点を考慮する必要があろう。
① 入り口の参入規制は事業者に関する一定の清廉潔癖性を保持できる厳格な体制が取られている模様である(現実にかなりの数の企業がライセンスを拒否されたという事実は、かなりいかがわしい主体も一定数市場に存在し、これらを排除できたという証左でもあろう)。
② サーバーやシステム機材をマルタに設置する義務、主要責任者を最低一人マルタに居住せしめる義務を課し、管理責任を問う体制や検査・監査を常時実施できる体制をとっている。勘定管理や顧客保護の体制は、まず顧客に勘定を保持させ、その勘定の範囲内で顧客に遊ばせるという基本構成になる。また、清廉潔癖性の確保に関しては、監査法人を初め第三者による検査・監査を実施することが前提となっている。
③上記により最低の要件は満たしているといえるが、実際の法の施行状況に関する情報公開は限定されており、検証することはできない(より最近の制度や規範、例えば英国の軌範と比較した場合、明らかに緩いわけで、これで大丈夫かという一抹の不安要素はある)。