マルタにおけるネット賭博ライセンスは、取り消し可能な特権として構成され、ライセンスを取得すれば、マルタから国外へ向けてインターネット・ゲーミングの提供ができる。ライセンス期間は5年で、マルタ法人であること、一定の要件(人物の性格・名声、申請者・株主・経営者の財務状況、運営能力、最低準備金維持能力、マルタに物理的に在住するという確約、過去違法行為がないこと、マネー・ロンダリング等に関する遵法性、規制当局が適切とみなす内部管理手順等の存在など)が要求され、資格を立証する義務は申請者にある。またライセンス付与に際し、顧客保護や公益上の要請がある場合、規制当局は追加的な条件を賦課することができる。ライセンス事業者の役員変更、申請書類中の重要変更事由、倒産・破産などに関する決議事項等は全て事前通告の対象となる。また、株主変更、資本金・株式比率等の増減、一部事業の売却ないしは処分、合併、分割、株式率の減少、株主投票権の減少、運営業務の一部を委託する場合の契約の締結、ライセンスの辞退などは規制当局の事前許可取得が必要となる。尚、規制当局がライセンスをはく奪できるとする十分な理由があると判断した場合、停止することが国益に適うと判断した場合など(例えば利害関係者による犯罪、重要事項準拠違反、財政上のコミットメント違反、事業者の倒産・破産事由、運営を継続できなくなる事象、虚偽の申請情報、顧客に対するコミットメント違反、納税遅延等)の場合は、ライセンスは剥奪される。
事業者は最低1名の主要職員を任命し、規制当局に申請し、認可を取得することが義務づけられる(また、当該主要職員がマルタの居住者、事業者の役員でなくなった場合、あるいは不適切な人物と判断された場合、罪を犯した場合、当該主要職員のライセンスは剥奪される)
ライセンスには下記4つの類型が存在する
・クラス1(オンライン・ゲーム・ライセンス):
僥倖によるリスクを取るゲームである(カジノ並びにロッテリー等になる)。
・クラス2(オンライン・ベッテイング・ライセンス):
事業者がリスクを取り、賭け事を提供するゲームになる(固定オッズ、ベッテイング・エキスチェンジ、スプレッド・ベッテイング、プール・ベッテイング等である)。
・クラス3(オンライン・ゲーミング・プロモーション・ライセンス):
顧客同志による賭け事を組織化して提供し、事業者がコミッションを取るゲームになる(マルチゲーム、ポーカー・ルーム、顧客間のソーシャル・ゲーム等である)。
・クラス4(オンライン・ゲーミング・ホスト・ライセンス):
上記いずれかのライセンスを保持する主体に対し、ソフトウエアのプラットフォームを提供する事業者に対するライセンスになる(コミッションはとるがリスクはとらない業になる)。
また、事業者はマルタの企業登録簿に登録された企業であり、サーバー(IT機器の主要部)が物理的にマルタに存在することが要求される。管理者、従業員ともども個人もライセンスと管理の対象になる。Interpolとの協力により、ゲーミング当局は5%以上の資本を保持する株主に関する詳細な情報を取得する。取引の透明性と安全性を確保するために、顧客勘定と運営者運営勘定は分離される。機材に関しては、ゲーミング規制当局が機材に施した封印が遵守されているか等組織的な不定期検査を実施する(検査官14人を保持し、夜昼を問わず、関与可能である)。オンライン・ゲームは、ゲームの公正さと透明性を確保するために5秒ごとに異なったパラメータで検査される。
ライセンス申請者は書面により、管理システムの仕様を提出し、その許可取得が必要となる。遠隔ゲーミングの運営に関する一般的手順、コンピュータ・ソフトウエア、勝金の記録と支払い手順、会計システム・手順、ゲーム運営手順、使用機材等の維持管理、保全、保管、輸送等に関する基準と手順、内部管理・一般法準拠等に関する維持・安全施設の立ち上げ手順、危機対応計画、適切なデータバックアップのシステム、その他規制当局が要求する情報等の提供が求められる。許可済みのシステムの一部変更の場合も、規制当局による許諾取得が必要となり、規制当局は必要に応じ、システムをテストする為に事業者の費用負担にて第三者監査に付すことができる。全てのゲームは許可されたコントロール・システムのもとでのみ営業可能とし、許可済みであても、規制当局は必要に応じ一部の変更命令などができる。また新しいゲームのシステムの場合には規制当局が必要とする適切な証明書を事前に提出する義務があり、この変更に関しては当局の事前許可を必要とする。
マルタにおけるインターネット賭博制度は、所謂インターネット賭博市場の自由化を前提にし、これに耐えうる規制と監視の仕組みを、ICT技術を前提に組み立てられたもので、以後、様々な国々により、参考として参照されている制度や規制になる。実質的な規制が無いに等しいカリブ海諸国とは異なり、マルタはオンライン賭博規制のあるべき骨格を提示する規制モデルの端緒となったことは間違いない。制度の在り方自体は、かなり深く考えられているといえる。