2005 年賭博法が経過措置を経たのちに法が完全施行され、 7年経過しているが、英国の制度でオンライン賭博ライセンスを取得しようとする企業は、当初の予想に反して、未だ数少ない。かつ英国の制度はこの分野での成功とは言い難い状況が生まれてしまった。なぜか。単純には、英国での費用があまりにも高すぎることに尽きるということになるが、複雑な他の要因も絡んでいる。2005年賭博法では、英国内で運営するオンライン事業者は賭博委員会のライセンスを取得する義務があるが、ライセンス費用はかなり割高で、粗収益に対し、遠隔賭博・賭け事税15%が徴収され、更には競馬に関連しては、競馬賭け事税の一部負担(10%)、賭博依存症患者対応費用負担等があると共に、スポーツ・ベッテイング一般に対し、英国のスポーツ団体は、「スポーツ権」なるものを主張し、公正なリターンの配分を求めるに至っている。また、企業所得税30%は上記とは関係なく、費用控除後の企業所得に対し賦課される。この意味ではオンライン事業者に課される実効税率はかなり高くなってしまう。
英国でのオンライン・ライセンス取得は、運営事業者の知名度や信頼性を向上させることに大きな寄与をしたが、費用的には高すぎるという欠陥があり、他の欧州諸国でオンライン・ライセンス制度が完備されることに伴い、段階的に英国にてライセンスを保持する有利性は減少していったことが現実となった。逆に英国に存在していることが費用的にデメリットとなることが拡大し、英国のオンライン市場は、均一かつ公平な市場(Level playing field)ではないという評価が定着してしまった。この結果、多くの事業者は、英国に事業所を置くことを回避し始め、英国でも広告し、営業はできるが、英国ではないオフ・ショアに本拠を置き、オフ・ショアから英国市場をも顧客対象にするという戦略を取った。英国では多くのオンライン事業者がオンライ・ンサイトを開帳し、英国人を顧客としているが、過半のサイトはオフ・ショアからのものになってしまっている(ジブラルタル、マン島、アルダニー等の英国領土やEU圏の国であるマルタに本拠を置く事例が多い)。結局、英国ライセンスを取得し、規制機関たる賭博委員会の監視の対象になるのは、全体の中で限られた主体でしかなく、この場合、英国の規制当局の直接的な規制の下には入らない事業者の方が多いわけで、実質的には法のループホール的なものができてしまったことになる。この意味では、英国の制度は少なくとも現状は、必ずしもうまく機能していないという状態になる。
この結果、2009年に文化メデイア・スポーツ省は、オフ・ショアから英国市場での活動を要求する(ホワイト・リステイングという)新たな申請を凍結し、賭博委員会と共に、現行制度を見直し、海外でライセンスを得た事業者が、英国でも規制・依存症対応負担金や競馬賭け事税賦課金支払いに対し、公平な負担をするよう新たな制度を考慮することを表明した。英国は一定の規制の下にリベラル、かつオープンなインターネット賭博規制の在り方を志向したが、サイバー世界ではこの考えは、現状必ずしもうまく機能していない。フランス、イタリアはあくまでも限定的な規制緩和として、自国市場へのアクセスは全て自国によるライセンス制とし、それ以外の事業者による自国市場へのアクセスは認めないというスタンスを取っている。即ち、あくまでも一国単位レベルでの規制になり、汎用的なライセンスの考え方ではない。この場合、事業者にとってみれば、ライセンスの相互認証がEU諸国間でなされないことを意味し、複数国で複数のライセンスを取らざるを得ない状況になる。一定の共通のものさしがあれば、ライセンスの相互認証等が可能になるが、軽課税国の仕組みは先進国の規制の在り方とはかなり本質的な差異があり、やはり一定の水準に全体を引き上げなければ、共通的な相互認証は難しくなるのが現実でもあろう。もっとも、税率は、各国の国内市場の規模や、政策の在り方により、大きく異なるわけで、事業者にとり、様々な選択肢があり、国レベルでの競争は存在している。その他の欧州諸国のオンライン賭博に関する考えは、フランスやイタリアに追従しつつある傾向が見受けられる。
欧州委員会は基本的に現状の各国の差異を認めつつ、厳格な法規制ではなく、一定の共通的な規範や基準を設ける考えを明示しているが、ことは単純ではない。