2010年末の公開資料によると、この時点で規制機関となるARJELは、34事業者に48のライセンスを付与していた。内、三つの種類の全てのライセンスを取得したのは欧州大手4社のみで、26社がオンライン・ポーカーで、スポーツ・ベッテイングのライセンス数は16のみであった。また競馬に関しては、ライセンス数は6つだけとなった。公開データによると、230万人が個人勘定を開設、最低170万の個人勘定が最低1回は利用されたとのことである。また、この内、1週間に最低1回勘定を使った顧客は約50万人に達する。もっとも人口の70%は賭博行為に反対しておらず、この場合、市場としての潜在的顧客数は3,500万人になり、まだまだ成長余力はあることになる。2009~2010年におけるオンライン賭博における売上(賭け金総額)はポーカー・トーナメントが4億1200万€(全体の7.7%)、キャッシュ・ポーカーが37億€(69.4%)、オンライン競馬が7億3900万€(13.9%)、スポーツ・ベッテイングが4億7900万€(8.9%)になる。2009年当初は約7億€市場であったが、2010年レベルでは53億€市場迄成長したことになる。内訳は、ポーカーがトーナメント・キャッシュを含めると全体の7割以上を占めている。事業者もその過半がポーカーのみのライセンス取得であることが多い(尚、競馬はPMUがオンラインでも実質的な独占者となっており、オンライン・ロッテリーも制度的にFDJの独占下にある)。オンラインによるスポーツ・ベッテイングもかなりの成長を示したが、期待以下であったのは、税コストが高く、事業者の参入が限定的であったことによると想定されている。尚、2010年の売上(総賭け金額)53億€は、89.9%が顧客に戻され、税は平均すると約4.8%(税が4.1%でその他の公租公課が0.7%)、運営事業者のマージンは約5.3%レベルとなる模様である。また、2012年末の段階ではライセンス登録者の企業数は21社と減少している。
注目すべきフランスにおける規制の考え方には下記等がある。
① 顧客保護の考え方(顧客ID確認手順):
顧客は18才以上、所定の手続きに基づき勘定を持った個人のみが可能で、勘定を設定するためには3段階の手順を踏む。第一段階として個人情報を登録し、仮勘定を取得、第二段階として1ヶ月以内に、事業者に対し、運転免許証・パスポート等のIDの写し、支払勘定の写しを送付し、第三段階として事業者より、仮勘定を確定勘定に変えるパスワードが送付され、初めて個人勘定が成立する(勝ち分の支払は仮勘定からはできない仕組みで、確実に成人であることが書面により確認され、初めて勘定を設定できるという複雑な仕組みとなっている)。未成年や不適格者を排除するには効果的だが、顧客にとってみれば煩雑極まりない手順となる。
② 不正防止・取引監視手順:
事業者は、サーバーにデータが入る前にフロンタル(Frontal)と呼ばれるゲーム取引管理モジュールの設置を義務づけられるが、これは登録顧客データや全ての取引データをサーバーに入る前にセンサーで感知し、事業者からはアクセス不能のデーターボックスにデータをためるもので、規制機関は任意の時点で、これら全てのデータにアクセスでき、かつ法順守を監視・チェックできるシステム構成になっている(イタリアとの違いは、イタリアでは、事業者が複雑なコミュニケーション・プロトコールを通じ、オンラインで規制当局のシステムにリンクすることが義務づけられている。フランスの場合には、事業者のサーバーにリンクするモジュールを設置させ、全ての取引データをスキャンし、記録することにより、規制当局が任意にアクセスでき、事業者はタッチできないデータ金庫を設けるという発想に近い)。
③ 不正サイト、闇サイト摘発等手順:
ライセンス無しに、オンライン賭博を提供することは違法であり、規制当局は裁判所命令によりサイトをブロックし、広告を禁止すると共に、金銭支払いフローをも遮断できることになっているが、果たして実効性のある考え方なのか否か、多分に理論的・概念的で、実務的な効果は薄いのではないかとする指摘が多い。インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)を捕捉し、不正サイトのブラック・リスト化を不断に更新し、サイトのブロックをISPに義務づけることをイタリアでは実施しているが、フランスではそこまでやっているわけではない。
規制による認知により、従来違法であったオンライン賭博は、かなりの部分がライセンスによるコントロールに入ったとみられているが、フランスでは未だにライセンスを取得せずに、国民にオンライン賭博を提供する闇サイトが現存している。民間調査機関による分析では、フランスのオンライン賭博市場の実態は約236億4600万€に達し、この内、ライセンスを受け、規制の対象となっている領域は43%に過ぎず、残り57%は未だに、規制を受けておらぬ違法サイトからの賭博提供になっているという。制度化にも拘わらず、違法サイトは限りなく市場に存在しており、淘汰できていないという現実になる。税率が高いこと、商品のラインアップが限定され、制約要因が多いことなどが、事業者が合法的なライセンスに移行しない事情でもあり、顧客も複雑な手順を忌避し、かつ顧客にとっての勝ち分が良い違法サイトに引き寄せられているという事情もあるようだ。こうなると現状の制度とシステムが効果的といえるか否かに関しては、若干の懸念を持たざるを得なくなる。