連邦制をとるドイツでは、賭博行為の規範は16の州毎に取り決められている。これら16の州全てで、一定の範囲内で賭博行為は認められているが、州際間に跨る事象や調整、EUとの関係はどうしても連邦政府の所掌となる。本来、州毎に取り決めるべき内容も、場合によっては、連邦政府事由になることもあるわけで、インターネット賭博をどうするかに関しても、そもそも州境という概念がサイバー世界ではないがために、国全体の枠組みの中で考えを調整する必要があった(歴史的にドイツでは、他の欧州諸国と同様にインターネット・賭博を認めることを忌避してきたが、これは既存のドイツ国内における公的主体による賭博独占が崩れることを忌避したためと考えられている)。この賭博行為に関する州際間の調整の枠組みが「州際間賭博協定書」(Interstate Treaty on Gambling)と呼ばれる制度的な枠組みで2008年1月7日、4年間の期限付きで、15の州が著名し、発効した(16の州の中で、Schleswig-Holstein州は参加を拒否した)。この協定書には、ドイツ国内では、インターネット賭博を厳格に禁止する明確な規定がある。禁止対象は広く、ロッテリー、テーブル・ゲーム、スポーツ・ベッテイング等を含んでいた。かつ、同協定書は同時に、インターネット・サービス・プロバイダーに対し、違法賭博を提供するサイトをブロックする義務を課すと共に、関連する賭博関連事業者との間で決済取引を行う銀行にも罰則を課す規定を設けていた。協定書は2011年末に切れる予定であったが、移行期間として2012年6月迄有効であった。
この間、欧州委員会は、上記州際間の協定が差別的であることを理由に、EU法違反の疑いを従前より指摘し、理由付意見書を提示していたが、他方では、ドイツ政府を相手とする訴訟が頻発されるなどの法廷闘争があちこちに生じる事態をもたらしてしまった。2010年9月8日、欧州裁判所(ECJ)は、Carmen Media Group訴訟(事案C-46/08号)において、ドイツの州際間賭博協定書は、一方では国内独占事業者を認め、他方では、域内外国事業者に対し差別的であるという理由で、一貫性・整合性に欠けるとして欧州法違反、かつ欧州法第49条に規定された自由なサービス供給規定にも違反すると指摘した。2010年に至り、ドイツ連邦最高裁判所も、政府がロッテリーの独占を保護することは、EU法上違反とする判断を示している。あきらかに、従前のスタンスとは異なる対応をドイツ諸州は迫られたことになるが、上記協定の期限切れに伴い、改定案を策定、欧州委員会に送付した所、詳細な反対意見書が送付されてきた。上記15州は、一部この欧州委員会見解を踏まえ、2011年12月に「改定州際間賭博協定書」の内容につき合意、同協定書は締結され、2012年7月1日から発効したが、(完璧な考えではないとはいえ)一部の分野を事業化するという妥協が成立した。
即ち、
① スポーツ・ベッテイング、ロッテリーをドイツ15州全域で独占制を止め、ライセンスを付与することにより、自由化する。ライセンス保持者は広告にインターネットを利用できるものとし、ライセンスの上限は20とする。
② 既存の州内部の独占事業者はライセンス取得手続きを免除する。
③ 上記に対しては賭け金額に対し、5%の課税を州政府が賦課する。
④ オンライン・カジノ、オンライン・ポーカーは従前と同様、禁止する。
上記は、一部賭博行為であるスポーツ・ベッテイング並びにロッテリーは、オンラインを含めてドイツ各州によるライセンス許諾により、これを認めることを意味している。従前の協定ではオンライン賭博は全て駄目という考え方だったため、より前向きのスタンスに変わったことを意味するが、あくまでも限定的、かつ、既存の公的部門の地位を保持したまま、一部市場を追加的に開放するということでしかないことになる。この意味では、完璧ではないし、オンラインに対する否定的な姿勢は基本的には変わっていない。
一方、ドイツの州政府も必ずしも一枚岩ではない。上記協定に不参加であったSchleswig- Holstein州は、2012年1月1日に、他州の動きとは別に、ライセンスによりインターネット・カジノ、インターネット・ポーカーを広く認める法律を独自に制定し、発効させてしまった。殆ど全てのインターネット賭博を認め、粗収益に20%の課税を課す考え方になる(税率はかなり高い)。この結果、2012年上半期には、7つの(オンライン)スポーツ・ベッテイング会社が同州でライセンスを取得することになった。一方、2012年下半期に至り、同州の選挙により、州政権の政権交替があり、保守党から社会党に政権が変わったが、新たな政権は、この州の賭博法を廃止し、州際間賭博協定書に参加することを主張し、再度大きな混乱が起こってしまった。
EU委員会自体は、2012年3月、その段階では発効されていなかった州際間賭博協定書に限定意見書を提出し、協定書自体を欧州法違反とするスタンスを変えていない。この結果、時間の問題で欧州委員会はドイツを対象に、欧州法違反手続きを開始するのではないかと想定されているが、その行方は少なくとも現状は定かではない。