インターネット賭博のビジネスとは、事業者としての設置場所は何処でもよく、税金や費用が安い国にその本拠を設置するという傾向がある。かかる企業の意向をうまく取り上げ、軽課税や事務手続きの簡素化、維持運営費用の低廉さを武器に、インターネット事業者を誘致し、認証し、ライセンスを付与することを推進したのが中南米やカリブ海諸国の一部の国々でもあった。その過半は、所謂タックス・ヘーブン(軽課税国)の国になり、これら諸国には約4,000社が登録されているといわれている。ライセンスを付与することで、一定の合法性を与え、市場の信認を得ることをこれら国々が政策として推進したことになる。制度的には微妙な国・地域も存在し、国際公法の間隙をついたニッチ市場を開拓したということが事実なのかもしれない。これらの国々の中には、制度も規制も何もなく、表面的にライセンスのみを売っている国もあれば、それ相応の制度を設け、一定の規制を実施している国もある。後者のうち、英国2005年賭博法の規定に基づき、英国と類似的なレベルのインターネット賭博規制に関する技術標準を持ち、規制を担っている国として英国政府に認知された国々をホワイト・リスト諸国(White listed jurisdiction)と呼称している。英国にてライセンスを取得している企業ではないが、英国にて合法的に広告をすることができ、ライセンスを取得しなくとも、英国人顧客に対し、賭博サービスを提供できるという奇妙な仕組みとなっている。
注目すべき国としては下記が挙げられる。
① ジブラルタル(Gibraltar):
法技術的には英国の一部となり、結果的に欧州連合(EU)の一部と見なされているが、英国議会から付与された別個の憲法を保持した英国の海外領土になる。所謂陸上設置型のカジノ賭博も認められているが、原則全ての賭博ライセンスはジブラルタル政府がこれを管理し、付与する形式をとる。賭博行為は「賭博コミッショナー」(Gambling Commissiomer)が規制当局となり、規制し、管理しており、インターネットを利用した遠隔賭博は、同国にサーバーを設置し、同国内にて管理される必要があり、年間フィーの支払いが必要となる。現在まで、認証されたサイバー・カジノ事業者は21社のみである。ジブラルタル政府はトラック・レコードのある信用できる主体のみにしかライセンスを付与しないことを公言しており、簡単、かつ単純にライセンスを付与しない仕組みを前提としている。この意味では、他の軽課税国と比し、一定の信用度がある。
② アイルオブマン(Isle of Man、マン島):
欧州連合(EU)と特別の関係を保持する独立した英国の領土になる。2001年「オンライン賭博規制法」(2001 Online Gambling Regulation Act)に基づき、同領土所在の企業に対してのみ、一定の年間フィーを支払うことにより、オンラインによる遠隔賭博を認めている。「マン島賭博監視委員会」(GSC, Isle of Man Gambling Supervision Commission)が5年間有効の遠隔賭博ライセンスを発行している。
③ アルダニー(Alderney):
英領チャネル群島の一部で、英国ないしは欧州連合の一部ではないが、英国の領土になる。「アルダニー賭博管理委員会」(GCC, Alderney Gambling Control Commission)が、サーバーが同領土に設置されることを条件にオンライン賭博ライセンスを付与している。ライセンスの仕組みは二重構造(dual online gambling framework)でライセンス分類1は対顧客関係・顧客資金管理に関するライセンスで、ライセンス分類2はオンライン賭博のプラットフォームに関する規制になり、両方取得するか、個別のライセンスを取得した企業がお互いに連携しない限り、実際の遠隔賭博の提供はできない仕組みを2010年から取っている。
いずれも制度を設けて、かなりの年数がたっており、この間、実績もあり、極めて類似的な規制や制度のシステムを構築するに至っている。表面的な清廉潔白性は、ある程度は確保できているとも判断されるが、果たして何処までチェック・審査するのか、形式論で終始し、実態は甘い規制になっているのではないかとう懸念は常にこれら諸国には存在する。しっかりとした監査や監視の仕組みを前提とする欧州諸国と比較すると、これら諸国の制度は極めて甘く、実際の監視も殆どなされていないと判断すべきであろう。尚、ホワイト・リスト諸国にはこのほかにタスマニア、アンテイグア・バルブーダがあげられるが、英国政府はホワイト・リスト関連制度そのものの認証手続きを既に停止しており、この概念そのものが2014年以降廃止されることが予定されている。