我が国では、賭博行為は刑法185条から187条の規定により、かかる行為に参加することも、これを主催することも犯罪となる。但し、刑法第35条(正当行為)の規定により、別途かかる行為が正当行為として制度として認められることによりその違法性が阻却されるという仕組みがある。この刑法上の例外規定に基づいてできた制度が公営賭博である。公営賭博制度とは、国や地方公共団体等の公的主体が主催する賭博行為になり、我が国では公営競技となる競馬(中央、地方)、競輪、競艇、オートレースとくじ系賭博となる宝くじ、サッカーくじ(Toto)の6種類が存在する。平成の時代になってから成立したサッカーくじ以外の全ての公営賭博制度は、自治体財政が逼迫した朝鮮動乱後の不況期に集中して制度としてできたもので、①その収益を逼迫する地方財政へ充当すること、あるいは②一定の政策目的を達成するための国や地方公共団体への追加的な財源とすることを狙いとし、公的主体がこれを主催し、その収益を独占する仕組みとして構成されたという経緯がある。一方サッカーくじは、スポーツ振興やオリンピック選手強化等従来予算が充分ではない分野への新たな補助財源を獲得する目的で、平成の時代になってから議員立法により制定された公営賭博制度である。
一般的に刑法上の違法行為を阻却する理由には、それなりの理屈が必要とされ、かなりの公益性と公共性が必要になるとされている。刑法が賭博行為を犯罪とするのは、守るべき利益、法益、があるとする論理で賭博罪の場合には社会的法益になる。賭博行為は、その行為そのものが直接他人を害したり、なんらかの否定的行為をもたらしたりするものではなく、すぐれて個人の責任で行われる遊興でしかない。一方、この行為により、公序良俗や地域環境が乱れうること(暴力団や社会的悪となる主体の参加、参入等による公序良俗や風紀の乱れ)、あるいは否定的な社会的事象をもたらしうること(未成年による賭博行為や賭博依存症患者の増大等)から国民を保護するという論理になる。かかる否定的要素を超える「公益」が存在し、否定的な事象を極力管理し、その発生を抑止できることが、公営賭博を認める法律上の理屈となっているのが我が国の制度になる。この場合の「公益」とは収益を公共目的のために用いるということである。
これら全ての公営賭博のシステムは下記特徴を持っている。
① 公的主体は賭博に参加せず、賭博のリスクとは無縁:
公営賭博の場合、いずれも胴元たる公的主体は競技等を主催はするが、賭け事には参加しておらず、顧客同士が賭け合う形式の賭博行為になる。胴元となる公的主体は総賭け金の一定率を控除するのみで、賭博のリスクをとって、賭博行為に参加しているわけではない(くじ系賭博の場合も同様である)。公的主体の役割は、競技を主催したり、投票券やくじ券を販売したりはしているが、全体の枠組みを提供し、これを組織化し、売上金の一部を競技やくじの帰結とは関係なく費用と収益をカバーするために控除しているだけになる。
② 本来的に公的主体にとり、管理しやすい仕組み:
上記は顧客から見た場合、総賭け金額から一定率が交付金、主催者経費充当分として控除され、残額が勝者間で分配されることを意味する。賭け金(売り上げ)の集計はトータリゼーターと呼ばれるシステムで全て正確に捕捉され、配当が瞬時に計算されるため、内部で売り上げが誤魔化されることはまず起こりえない。不正は、競技自体(八百長)や外部(ノミ行為)に起こりやすいが、公的主体はあまりこのリスクに晒されないということがこの種の賭博行為(パリ・ミュチュエル賭博という)の特徴になる。だからこそ公的主体でもかかる運営が可能なのであって、公的主体がいるからこそ不正を防止できているという論理はおかしい。
③ 控除額の枠内で費用を賄え、剰余金があることが全ての前提:
よって、総賭け金(売り上げ)が十分な規模にあれば、一定率の控除額の枠の中で必要となる費用を差し引いた後でも十分なる収益を計上することができる。一方、全体の総賭け金(売り上げ)が減少するような事象が生じる場合には、当然控除額の絶対額も減少し、この前提でもし開催費用が増えることになれば、費用を収益で賄えなくなる状態が生じかねない。これでは赤字となり、事業の継続自体が問題視されてしまう。これは経済が上昇機運にあり、消費が伸びる場合は問題ないが、逆に不況が長期化し、消費を抑制するような経済の下降期には、大きな運営上のリスクを抱える事業になることを意味する。
④ 公的主体が主催することに伴う社会的デメリットもある:
地方公共団体が主催する公営競技やくじは、地方財政法上は、地方公共団体がなす営利事業になる。中央競馬はその主催を中央競馬会法に基づき、中央競馬会(JRA)に委ねているが、収益は国庫に納付されることになり、国が担う賭博に等しい。またサッカーくじは国の機関である独立行政法人にその施行を委ねているがこれも実質的に国が主催者となる。いずれも、競技の実務は特定の法人や公益・非営利団体に委ね、かつ益金を配分するメカニズムとしての振興法人やその他の特殊公益団体が存在する。主務官庁の権限は開催に係る権限やこれら振興法人・特定団体に対する命令権・人事権等で構成されるが、天下り、利権の囲い込み的な側面が生まれていることは否定できない。公的部門が担うことの否定的な側面もあるということになる。