地方公営競技では、競技を主催する権利を国が指定する地方公共団体に付与し、地方公共団体が整備した施設で競技が行われる。この施設に顧客が行くことにより、初めて賭博行為に参加できるという仕組みになる(勿論、これを補完する枠組みとして、場外での投票券販売や電話投票があるが、販売力強化の為に、投票券の販売を外延的に拡大する考えになる)。これは結果的に当該自治体に一定の市場独占権を付与することを意味し、当該地方公共団体が競技を担うことのできる施設群を自治体が整備し、特定の市場域を前提として独占的に、賭博行為を主催するというビジネスモデルになる。この点、当初から制限の無い、広域的な市場を前提とした中央競馬やTotoとは若干考え方が異なる。
この地方公営競技が成立する前提とは、①至近距離に競合相手がおらず、一定の地域内の顧客をほぼ独占的に抱えることができること、②当該地域内に独占的な施設やシステムを保持することが通常で、これにより自己完結的にビジネスが成立できることにあった。一定市場に安定的な需要が存在し、これに応じた売上げがあり、個別事業による売り上げから控除される金額が総開催費用を大きく上回る状況であれば、このモデルはうまく機能する。一方、個別の事業毎に全ての施設やシステムを固有に抱え、販売も運営も独自に行う場合、やはり、開催費用は高額にならざるを得ないという事情もある。例えば、競技におけるオッズの算定は、支払い・収益が認識されると同時にコンピューターで処理され、大型画面や端末機器に配当額が掲示されるが、巨大なシステムとなり、その資本投資や更新投資も馬鹿にならない金額になってしまう。これら減価償却や開催経費を十分賄える収入があれば問題ないが、収益が減り、開催費用を縮減することが望まれている時代には、個別の開催主体が高額の資産を抱え込む事は、固定費用や減価償却負担がかなりのしかかることになり、必ずしも効率的な考えにはならない。巨大な設備やシステムは、常に効率的に利用されているわけではない。利用時間は限定されるため、システム自体が十分に活用されていないという事情があるからである。
公営競技は、地方自治体がなす営利事業とはいえ、じり貧になればなる程、何らかの合理化や効率化のための知恵や工夫が生まれてくる。競輪、競馬、オートレース等の地方競技では、一部の先行する自治体同士が、グループ化し、①自ら資産を保持せず、第三者に資産を保持させ、使用料のみを支払うこと(高額な資産を保持しない)、②あるいは複数の自治体間で、資産を共有化したり、タイム・シェアリングにより、同じシステムを利用することにより、重複投資を避け、投資費用を縮減すること、②馬券や車券、舟券などの販売行為もこれをプール化し、共同で行ったり、お互いに販売を助けたりすることにより、費用をかけずに販売の効率化を図ること等の行動が散見されるようになった。資産の側面での最大効率化要因は、競技賭博運営の機関システムとも言えるトータリゼーターの共同利用化であろう。従来個別の競技場毎にかかるハードの施設とシステムが存在したが、高額な投資でもあり、投資負担はかなりの重荷にもなった。一方、複数の異なる自治体主催者が共同でこれらを投資し、共同で利用すれば、システム投資の負担を分割・分散することができる。この考えに基づき、地方競馬に関しては、2013年春に全国のシステムを統合する単一トータリゼーターが胎動した(全国の地方競馬場の運営を東京の大井競馬場に設置された一つのコンピューターで処理する仕組みで、タイム・シェアリングを実施していることになる)。
この様に、地方競馬の場合は、地方競馬共同センター、競輪の場合は全国競輪共同センター、競艇の場合には競艇共同センターが既に設立され、トータル・コストダウンへの動きが始まりつつある。販売の側面でも、売上拡大のために、①各地域間での同種施設連携による売上げ協力を図る動き(一つの場所で他の競技の投票券を販売する)や②異業種連携(同じ県が施行者である場合、同じ県の競輪施設において競艇の舟券を販売する)による施設の有効利用・売上げ拡大などが実施されている。市場をできる限りプール化し、顧客ベースを広げるという動きになる。一方、販売自体は、電話投票を通じた投票券の販売が、過半を占めつつあることが現実でもあり、コンピューターや携帯等をより効果的に用い、顧客の利便性を向上するあらゆる手段を駆使することにより、費用を上げずに、収益の拡大を期す様々な試みが実践されつつある。顧客にとってのアクセスや利便性を高め、顧客の満足度を高めることにより収益増を図ることは極めて合理的な行動になる。この現実を踏まえて、経営や運営の更なる合理化が必要になってきているといえる。