経営改革の要点は冗費を削る(支出を極力減らす)だけでは無理で、支出を減らしつつも、より積極的に収入を増やす努力や工夫を効果的に併用することにある。公営競技であってもこの本質は全く変わらない。但し、ことが賭博行為である場合、かつ経営主体が地方公共団体である場合、賭博行為を推奨することが適切な公共政策といえるのか、公的主体は賭博行為の主催者として如何なる立ち位置にあるべきかという疑念が常に存在し、大胆な施策を取りにくいなどの事情がある。これが明確な制約要因となり、経営改革が実現できない背景ともなっている。
これは下記背景があるからである。
① 賭博行為は本来抑制的であるべきで、公的主体自らが賭博への消費を募り、賭け事を推奨することは好ましくないとする考え方がある。かかる事情により、開催日や開催条件などの経営の基本的な条件は、国がこれらを規制しており、主催者たる地方公共団体が自分の意思で、より効果的に開催日や開催日数を自由に増やしたりして、集客効果を上げ、結果的に収益を上げることは単純にはできない。いうまでもなく、開催日を効果的に増やせば、当然それだけ売り上げは向上する可能性がある。
② 賭け事の商品は、馬券や舟券などになり、その賭け方、賭け金で人気が決まり、売り上げが決まる。様々な賭け方が存在するが、この商品設定も自由ではなく、規制により厳格に規定されるため、限定的な商品を限定的な形でしか販売できていないということが現実になる。商品を増やし、顧客にとっての魅力を増せば、当然売り上げ増は期待できるが、射幸心を煽る行為を公的主体が主張することに繋がり、事は単純ではないということに尽きる。
③ かつ地方公共団体が主催者である場合、民間主体と異なり、(税金を用いて)積極的な売り上げ増大や、売り上げを増やすためのマーケッテイング施策はとりにくいし、できないという事情もある。制度上は地方公共団体がなす営利事業でもあり、本来民と同様の行動がとれるのだが、そううまくいかないという事情になる。
では如何なる手法や可能性があるのであろうか。公営競技を改革するためには、思い切った戦略と行動が必要であり、積極的な市場開拓により市場を育て、健全な形で顧客を公営競技に振り向かせることが必要である。たとえば下記のごとき手法がある。
① 競技自体を魅力あるものにする:
競技自体のゲーム性、面白さを工夫し、競技への興味がわく仕掛けが必要となる。高い広告宣伝費をかけ、若者に人気のある著名人を前面に打ち出すのも一つの手法だが、費用を縮減しながら老若男女が集まりやすい施設とし、サービスの改善、施設自体の魅力やコンテンツを工夫する余地はまだ十分ありそうである。
② 賭け方を面白く、魅力あるものにする、多様な賭け方、多様な商品をそろえる:
賭け事のあり方は、単純な賭け方で、わかりやすいこと、多様な賭け方があることが肝要で、商品数を増やし、顧客にとり多様な選択肢(多様な賭け方、多様な商品)があるほうが魅力を増し、売り上げは確実に増える。この施策が、射幸心を煽る行為になるとも想定できず、ある程度の裁量権を現場に落とし、選択肢を増やす(商品構成を増やす)考えがあってしかるべきと判断される。
③ 賭け方の手法を単純に、アクセスや手法を限りなく広く、単純化する:
インターネットやモバイルを活用した投票券の販売は、投資費用を限りなくかけずに、販売ネットワークを限りなく増やすことに繋がる。セールスポイントが個人化され、よりアクセスがしやすくなることは、効果的にマーケッテイングや販売を実施できる可能性を示唆し、確実に収益を増やす効果をもたらす。いかにアクセスを単純化し、売りやすくするかが、販売を増やすことになる。この試みは既に行われているが、使い易さ等の観点から、まだ課題が多い。
④ 既存顧客に対するより積極的なマーケッテイングを実施する:
既存の固定客たるファンへのきめの細かいサービスや顧客還元サービス等、今ある顧客を引きとめ、再度来させるような魅力的なサービスや動機づけを提供する必要がある。マーケットデータを分析し、顧客セグメント毎に、より効果的なマーケッテイングをすることにより、費用対効果が上がり、収益を増やす可能性が高まる。新たな顧客層を開拓する努力と共に、少なくとも既存の顧客に対しては、より質の高いサービスを提供することも肝要であろう。
⑤ 顧客サービスを高める、より質の高い、きめの細かい顧客サービスを提供する:
来訪する顧客に対する施設の質を向上させ、顧客に対し、飲食や付帯サービスも含めてより質のサービスを提供する工夫が競技全体の魅力を高める。開催の時間帯に応じ、より決めの細かい顧客ニーズにフィットした工夫が必要であろう。
改善の余地はまだ十分にある様にも思えるが、現行制度は、施行者による大胆な改革へのアプローチを認める構図にはなっていない。公営賭博に関する過去の制度的枠組みやしがらみに囚われない発想や行動力が求められている。この為に、制度全般のあり方を見直すことも重要な政策的選択肢の一つになる。