市場環境の変化やこれに伴う経営環境の悪化に伴い、公営賭博の制度的あり方を再考すべきという主張は、特に地方公共団体レベルで、施行が赤字基調になっている団体が増えたり、開催権を返上し、施行を廃止したりする団体が増えると次第に声が強くなってくる。過去10年に亘り、危機が叫ばれると、一部制度改革を実行し、一定の期間が過ぎると再度危機が到来し、また一部制度改革をするということが繰り返されてきた。小手先の改革で現状を糊塗し、根本問題の解決を先送りにし、とにかく現状を維持しようとする試みのようにも見受けられる。2011年に生じた一部公営賭博・公営競技関連法改正の動きもこの流れの中に位置づけることができる。2012年、2013年の通常国会において、競馬、競輪、オートレース、宝くじ、Toto関連の公営賭博法制度の一部改正が法律として成立した。賭博種により、制度改定の内容の詳細が異なるが、概略下記等がその内容となっている。
① 交付金制度改革:
特定交付金還付制度(施設改修等の投資費用につき、施行者が納付した交付金の1/3を限度として交付金を還付する制度~競輪~)の廃止、振興法人に対する交付金率の引下げ(競輪、オートレース)、赤字施行者に対する交付金の実質的減免(決算において赤字が確定した場合、赤字相当額の交付金の還付~競輪・オートレース)、交付金猶予特例制度の廃止(交付金の納付を5年間猶予する制度であったが、実質的減免を導入したため不要になった)等になる。一部公営競技では、施行者から交付金として強制的に徴収する仕組みそのものが破たんしつつあることに対する制度的対応になる。但し、段階的、パッチ・ワーク的な対応に終始しているのが現実であろう。
② 事業規制の見直し:
施行者の自主的判断により、的中者に対する払い戻し率を設定できる範囲を拡大するもので75%から70%への下限率引き下げ~競輪・オートレース、あるいは下限70%、上限80%の範囲で任意に設定~競馬~等の考え方になる。顧客勝ち分を減らし、その分公的主体の取り分を増やすことができる裁量権を主催者に認める考えになる。また開催日数、開催日程等の規制緩和が実施され、年間開催回数の下限規制や開催の日取り調整に関する主務官庁の指示権限を廃止する等、施行者による事業運営の自由度を高める施策が講じられた。
③ 財政支援措置の延長:
地方競馬に関しては、2012年に期限切れとなるJRA,地方競馬全国協議会による地方競馬主催者に対する財政支援の5年間の延長が認められた。財政支援は苦悩にあえぐ地方競馬の一時的延命策に過ぎず、前向きな施策とはいえない。
④ くじ系賭博関連制度改革
宝くじに関しては費用や支払負担軽減の為の電磁的記録化の許諾(これにより宝くじのインターネット販売が可能になる)、当選金最高倍率の引き上げ、委託金融機関の拡大等専らくじの販売を強化する制度改革になり、Totoに関しては、欧州プレミアリーグ等を販売対象とすることによる通年販売と当選金額の引き上げが2013年制度改革により認められた。
上記の内、公的部門による法定控除率25%を30%にあげる可能性は、その可否も含めて個別の主催者となる地方公共団体の判断に委ねられているとはいえ、顧客の取り分を減らし、その分自治体の取り分を増やすという考えになる。これでは、何らの経営努力無しに、顧客勝ち金を減らし、経費に充当できることを意味し、禁断の木の実でもあろう。顧客を犠牲にし、自らの存続のための費用に用いても、①中長期的には顧客の離反を招くことと共に、②自らの努力や改革も無く、顧客の犠牲により苦境を凌げるということでは、安易に問題の解決を先送りにするだけに終始してしまう可能性が高い(かつ主催者間で払い戻し格差が生じる可能性もあり、これでは更にファンが逃げてしまう可能性がある)。実質的な支援措置の5年間の延長も同様で、確かに一定の現状維持効果はあるとはいえ、これでは改革のための努力を促すことはできない。
補助金の仕組みが温存され、改革の努力をしなくとも現状が維持できると地方公共団体が考えた場合、誰も好き好んで痛みのある改革には手をつけるわけがない。改革への努力が無いとしたならば、数年後にはまた同じ危機に陥るのは目に見えている。現状のままで売り上げが減少する傾向が続くとした場合、座して死を待ち続けているといっても過言ではあるまい。こうなると、一部公営競技に関しては、市場が明らかに供給余剰であるならば、全国レベルでの主催者の統廃合や再編、経営資源の更なる集約化による重複業務の排除や効率的な運営等も考慮すべき選択肢の一つになりうる。