2013年4月26日、超党派スポーツ議連の国会議員が創った「Toto制度改正検討プロジェクト・チーム」が議員立法として上程した「スポーツ振興投票の実施に関する法律及び独立行政法人日本スポーツ振興センター法の一部を改正する法律」が殆ど実質的な審議が無いままに、参議院で可決され、成立した。この法案は現在Jリーグに限定されているサッカーくじ(Toto)の対象を欧州主要リーグやワールド・カップ等主務大臣が基準に適合すると特定し、指定するサッカー競技にも広げる内容となる。Jリーグのリーグ戦は12月上旬~2月には試合がないが、一方、欧州主要リーグは通年実施されているため、海外試合の導入により、このギャップをうまく埋めることに繋がる。もし、人気のあるサッカーくじを通年で販売できるとするならば、現状年約800億円の売り上げが1,100億円程度にまで伸びるという。
事の発端は2020年夏季五輪の東京への招致活動がもし成功した場合、メイン会場となる予定の現在の国立競技場(東京都新宿区)は大幅改修せざるを得ず、1,300億円と見積もられているこの費用をどう工面するかという話にあった。厳しい財政状況の折、この改修費を全て国費で賄うことは難しい。一方この施設は、「国立」競技場であり、国の独立行政法人である文部科学省所管の日本スポーツ振興センターが運営・管理する施設となるため、その改修等は国の一般会計からねん出せざるを得ないことが基本になる。例え、東京都が招致に深く絡むオリンピックゲームであっても、東京都が国の施設の改修費を負担しなければならない理由はない。日本スポーツ振興センターは当該改修費全額を国の一般財源でまかなうよう予算要求したが、財務省は、厳しい財政事情を盾に抵抗、もし招致に失敗するならそこまで立派なものを造る必要がないと反対し、センターと東京都にも応分の負担を要求してきた。結局13 年度予算案では基本設計費13 億円のみが盛り込まれ、総工事費の負担配分はこれから調整されることになる。改修は設計に2年、建設に4年といわれ、費用の押し付け合いが続けば、準備が遅れ招致に影響する可能性もある。
上記事情から、日本スポーツ振興センターにとっての新たな収益となるサッカーくじの種類を増やすことにより、増収を図り、この収益の一定部分を特例的に大臣が定める支出に投入することを制度化することにより、上記改修費1,300億円を賄うという目論見となる。制度としては、くじ増収分の財源として振興くじの売り上げの5%を越えない範囲で文部科学大臣が財務大臣と協議して決める金額を両大臣が協議して決める業務(特定業務)に必要な費用として充てることを認めている(一般財源化せずに、特定費目に直接この国費を投入する)。実態は、このくじ収入による国費投入、(国の保証による)センターによる銀行借り入れ、債券発行等の組み合わせで国立競技場の改修に必要な資金調達を図るという目論見であろう。場合によっては、この施設整備にPFI手法を採用し、上記国費を支払の一部財源として、行政による延払となるサービス購入型あるいはこれと利用料金を併用する混合型による支払を前提とし、民間事業者に整備に必要な資金調達を委ねることも想定されている。
海外レース(試合)を対象に賭博行為をすることは、わが国ではまだ試みられていないが、果たしてこれが実現できるのか今一つ定かではなく、ことはそう単純ではない。国会審議録を見ても、何とも物足りない質疑応答になり、果たして緻密な制度設計が行われているのかに関しては、懸念もわいてくる。これは①わが国Jリーグの場合には、八百長等の不正を防ぐために、かなり厳格な規律を制度上要求しているが、相手が海外リーグの場合、不正を監視し、防止する手段は一切無くなる。もし、八百長等があった場合には、くじ自体が成立しないと共に、主催者は損害を被ることになるが、救済は得られず、かつ、損害賠償も要求できなくなる。②センターによる海外競技の取り入れは、FIFA等海外主催者の同意を得てやろうという考えではなく、大臣による一方的判断で海外の競技を対象に賭博行為を提供しようとしている。この場合、現在欧州諸国でも議論になっている所謂スポーツ権としてこれら競技団体等が日本での売り上げに対し、応分の負担を要求してくる可能性も高い。但し、国会答弁によると、文部科学省やセンターはこれらリスクを現時点では全く考慮していない模様である。
新たな魅力ある賭博種や人気がでそうな商品を認めて、収益を増やし、当該収益を新たな財源として公目的に用いることは、合理的な考えでもあるのだが、ことが海外で主催される競技となると、複雑な問題が浮かび上がりかねない。果たして、充分な検討をした上での法改正といえるのか、これではとらぬ狸の皮算用ではないのかという懸念が残る。