前述した様に賭博行為の法制化はまず立法府での立法政策としての議論ありきになる。一方、賭博行為の制度化に関しては、同じ政党の内部でも議員間で意見が分かれやすい主題になる。議員個人の宗教感、倫理観や信念とも絡み、賭博行為を認めるか否かに関しては議員個人の信条の問題になってしまう。政党の内部でも、かつ政党間でも意見が割れやすい政策の合意形成を図ることは単純ではない。かつ、問題が問題であるだけに、例え法案が上程されるにしても、政党内部の状況次第では、公党として議決に対し拘束力をかけることは難しい側面もあり、議員個人の意思が反映される形での採決形態になる可能性もあると想定されている。
一方、この事情は逆に、公党の枠を超えて、与野党の議員が同じ政策や主張ができる可能性をも広げることになる。事実、自由民主党の議員が議員連盟を組成し、カジノの合法化議論を始めた時点で、当時野党第一党であった民主党も類似的な行動を起こしている。民主党は、既に平成11年8月の時点で、21世紀を見込める将来産業として、第3次産業であるエンターテイメント・サービス産業を育成する必要が急務として、「民主党・娯楽産業健全育成研究会」を議員連盟として設立した(設立当時の会長:石井一衆議院議員、事務局長:牧義雄衆議院議員)。この議員連盟は、国民大衆の中に広く根付いたパチンコ産業の法整備や税制などを整備する動きでもあり、このために新たな遊技業法の成立を期して、その実現を図る議員連盟でもあった。但し、遊技と共に、公営賭博やカジノ賭博等も広く娯楽産業として捉える考え方をもっており、民主党衆参両議員約90名が議連に名を連ねるに至った。この同じ議員連盟が、その後自民党内にできた「カジノと国際観光を考える議員連盟」とも連携し、超党派議員立法での我が国の遊技産業など娯楽産業の健全育成と共にカジノ合法化を目指すことを志向したわけである。当初の背景は異なるが、賭博や遊技産業の制度化を図るという意味では類似的でもあり、民主党は遊技も賭博も全く類似的なエンターテイメントと判断している点が異なるといえば異なるのであろう。自民~民主の連携が単純に進まなかったのは、当時民主党はカジノ法とパチンコ新法の二つを同時に実現することを標榜しており、自民党は中長期的にパチンコ新法には反対はしないが、これら二つを混同すれば確実にいずれも実現できなくなると実務的に考えていたためである。かかる背景から、当初、自民党は民主党に対し、娯楽産業健全育成研究会とは別の、新たなカジノ立法だけを企図する枠組みを切り出させて、別の議連を構成させ、これと連携することを模索してきたという経緯すらあった。
自由民主党が議員連盟による検討から党の機関である政務調査会におけるカジノ合法化に向けての正式検討に入ったのと類似的に、民主党も政権奪取の可能性が出てきた平成20年6月の通常国会会期末の時点で、次の内閣(政務調査会)内に「新時代娯楽産業健全育成PT」を設けている(座長:古賀一成衆議院議員、事務局長;牧義夫衆議院議員)。次の内閣のPTとは自民党の政務調査会に匹敵する党の正式機関でもあった。党の正式な認知を得て、立法化を目指す立場をとったのは、政権交代が実現した場合には、公党間協議へともっていける体制と検討を早めに実施するという考えに立脚したためである。かつ、民主党はカジノ立法化に関する内部的な検討に関しては、自民党と比較すると遥かに立ち遅れており、自民党にキャッチ・アップするという狙いもあった。平成20年6月には、自民党、民主党、公明党、国民新党等の議員有志団は、同年に想定されていた選挙後に、カジノ実現のための超党派議員連盟を構成する基本的な合意を非公式にしていたことも事実である。この時点で与野党を含めると既に230名以上の衆参議員がカジノの立法化に賛意を示していたことになる。
では、この時点で、自民党の主張と民主党の主張とでは議論の熟度や論点の整理、立法化に向けた検討の内容や論点整理はどうであったのか。残念ながら、この点になると、当時民主党内部では、必ずしも十分な議論が尽くされているわけではなかったのが現実である。カジノの必要性や立法の趣旨に関しては基本的な考えは共有され、合意されてはいても、ではどうこれを制度として、また国のメカニズムとして実現するかに関しては、特段の議論も無く、明確かつ明瞭なビジョンや立法政策を共有しているわけではなかったのが当時の民主党の実態でもあった。民主党のPTは、平成20年度以降も、段階的に議論を重ね、立法化の検討に関し、より先行していた自民党へのキャッチ・アップを図ったというのが現実である。この意味では民主党は、先行した自民党の基本的な考えを踏襲しつつ、民主党らしい追加提案により、自民党も納得しうる超党派議員連盟に繋がりうる案の検討を進めてきた。この状態が継続されつつ、平成21年に衆議院選挙が行われ、政権交代へと繋がっていったことになる。 平成21年度以降、政党間のパワーバランスは明らかに自民党から民主党へと移りつつあった。