新たな賭博行為を認めるか否かは、基本的には一国における政治的・社会的な選択肢でもあり、民意と民意により選ばれた議員の総意があれば確実に実現できる。では、一定数の国会議員の賛同があれば、単純にこれが実現できるのかとなると、事はそう簡単ではない。賭博行為をどう判断するかに関しては、意見が分かれる議題でもあり、政党間の合意は容易ではないし、一つの政権党の中でも議員個人の意見は分かれる。特定政党が政権政策として取り上げるためには、政党内部での合意形成も単純にはいかないという側面がある。賭博行為は悪というイメージが国民にある場合、これを推進する立場を取ることは票が逃げるということを議員は危惧してしまう。個人的意見は別として、国会議員としても小選挙区制度のもとでは、住民の声が即、票に反映するため、中々表立って賛同しにくいという事情もあった。かつまた、その経済的効果のみを主張するだけでは、到底合意形成には至らない。政治レベルでの合意形成とは、この様に単純にはいかないのが現実である。
かかる事情から、新たな賭博法制の創出は、一つの政党が単独で法案を出し、採決を強要するというアプローチはそもそもありえず、政党間、議員間で様々な議論があることより、与野党を問わず、見解を一にする国会議員が、超党派の枠組みで、連携し、これを推進することが一つの効果的、かつ合理的な選択肢になると見られてきた。事実自民党政権の頃でも、与党自民党と野党民主党は、カジノ法制化の可能性に関しては、そもそも類似的な考えをしてきたという経緯もあり、平成17年から18年にかけては、お互いの推進議員連盟の幹部が意見交換をしつつ、考えを調整しながら、連携や協力の可能性とタイミングを図ってきたというのが事実となる。但し、超党派の正式な議連となるために、紆余曲折があったのは、①政局や与野党の微妙な関係次第では、話が進まないと共に、②基本的には議員の行動は自由とはいえ、実際の立法化の為に与野党議員が共同して行動するためには、個別政党内の内部的な合意形成や同意取得も必要であるという事情や、③超党派による議連の組成やその活動も組織としての政党による認知が必要になってくるという事情があったからである。
2008年の時点において、政権与党である自民党、野党である民主党の各々の新たな賭博法制実現を推進しようとしてきた国会議員は、法案の実現には超党派の枠組みでこれを推進するしかないという現実的なスタンスをとってきた。個別の政党の提案ではなく、あくまでも超党派で多数派を構成し、予め議論を詰めた上で、確実に多数派を実現し、法案が通ることを確認した上で、国会に法案を上程するという戦略になる。準備会合は何度も与野党間で開催されたが、選挙や、政権交替等があると、どうしても新たな政策で、既存の政権与党のアジェンダのテーブルにない優先度が低いと見なされる案件に関する議論は中々進まないのが現状になる。2009年夏の民主党による政権交代は、この動きを更に複雑にした。従前の自民党も、民主党も党内に政策を議論し、立案し、利害調整を図るための組織として政務調査会が存在し、この下に様々な政策にかかわる調査会や部会があり、これが党の正式な組織として、政策の検討や法案の検討等を官僚組織と平行的に動きながら担ってきた。一方、民主党は、政権交代後、政務調査会を廃止し、各省庁の大臣を含む三役と与党議員との政策委員会で政治主導の名のもとに政策を進めることを思考錯誤的に実施した。従来通りの体制であったならば、政務調査会の個別の部会等の枠組みの中で、政策をもんだり、利害調整を図ってきたりしたのだが、これらに係わるポストが無くなると共に、議員が議論できる「場」が無くなってしまった。明確に主管する省庁が決まっていたり、特定の省庁が予め政策に関与する分野であることが明示的な場合には上記の場合でも下から官僚組織が支えるために機能しうるが、複数省庁が関与したり、複雑な省庁間の利害調整が必要な政策の場合には、より上位の政治的なパワーとモチベーションが無い限り、何も動かなくなってしまう。これは政権与党内で、分野や対象によっては、新しい政策議論を自由に展開できなくなることを意味した。この結果、与党議員の不満が募ると共に、正当としての活力は大きく削がれることになった。政治的な意思決定の在り方が乱れると、超党派による議員連盟などで法案を進める考え方はまず認知されなくなってしまう。
一方、自民党も、選挙敗退後は議員数が減少したために、従来の細分化された政務調査会を改め、個別専門的な分野以外は、個別の調査会を置かず、集中的に政務調査会が政策を検討するという体制に変化した。
政権交替に際し、与野党いずれもが、政治的な意思決定の在り方に混乱をきたしたのは致し方ない側面があった。今までの在り方は全く通用しなくなり、新しい政治的な合意形成の在り方が模索されていたのであろう。残念ながら、これには時間を要したというのが現実となった。2010年春になり、民主党内部の体制も安定化し、新たに政策調査会(政調)という党の政策意思決定メカニズムが再構成され、同党議員による超党派での法案検討の枠組みも認知されるように党の方針が変更された。この結果、民主党内部での幹部同意を得て、2010年4月14日、自民党、民主党、公明党、国民新党、みんなの党、大地の党等の超党派による「国際観光産業推進議員連盟」が成立した(会長:古賀一成、民主党衆議院議員)。これが現在まで続いているカジノ法案を実現する超党派の政治的枠組みになる。