本年度通常国会会期末に近い2013年6月7日、日本維新の会は単独で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(通称:IR推進法案)」を衆議院事務総長に提出した。勿論これは超党派議員連盟の合意を得たものではなく、かつまた、維新の会としての独自案とは言えず、超党派議連のIR推進法の内、下記3項目を修正した内容のものであった。その本質は超党派議連の案と大差の無い内容でしかない。変更した部分は、下記の通りである。
① 超党派議連の原案は、東日本大震災直後に策定されたものでもあり、当時の事情を反映し、施行者から徴収する納付金に関しては、「東日本大震災等の大規模災害からの復興に要する費用に充てることができるものとする」とする規定(第12条関連)があり、これを削除した。震災復興には既に十分な財源の手当てが為されている以上、他のより政策的に重要となる使途を別途考慮することになる。
② 政府による特定複合観光施設区域の整備の推進の為に必要な措置(即ちIR実施法の策定)を推進法の「施行後二年以内を目途として講じなければならない」とする規定(第5条関連)を「一年以内」と短縮した。
③ 政府が組織する特定複合観光施設区域本部の本部長(内閣総理大臣)に意見する衆参両議院・学識経験者より構成される「特定複合観光施設区域整備推進会議」の規定を削除した(第21条関連)。
上記修正は、超党派議員連盟を再組成する前の2013年3月に実施された、与野党責任者による世話人会の場において、維新の党より各党に説明されたが、①は反論もない修正、②は単純に政府が実務的に対応できるか、現実的かという課題が残るだけになる。一方、③については、国会議員が関与することは利権等に繋がり適切ではないとする主張なのだが、IR実施法を策定するまでは様々な政治的判断が必要とされる項目も多く、単純に政府に委ねるだけではカジノに関する規範を含むIR実施法の策定は難しい。この点に関しては、与野党の合意ができているわけではない。上記修正案に基づき、維新の党は、世話人会や各党幹事を通じ、党代表の意向により、維新の党単独で今通常国会中に法案提出する可能性があることを幾度となく示唆してきたが、同意が得られたわけではない。超党派議連としてこれまで与野党は完璧に共同歩調をとってきたにも拘わらず、一方的に一部修正した案文を独自案として国会に上程することは、与党自民党・他野党からしてみれば、それは無いだろうということに尽きる。本来与野党が一致して、超党派で行動しない限り、審議され、可決されることなどありえない法律案であることは、維新の党を含めた与野党議員の共通した認識だからでもある。7月に参議院選挙を控えた通常国会では、会期延長があり得ず、そもそも法案を審議する時間は無く、確実に審議の対象にならない法案の上程となった。法案をどう成立させるかというよりも、永田町の論理と政党間のバトルが優先したというのが実態であろう。但し、政党間の足並みを乱す行為は当然与党や他の野党から忌避されることになった。この行動は、維新によるスタンドプレーとみなされ、マスコミは殆どこれを無視している。法案を提出することに意義があるのは与野党が一致した行動をとるときであって、単一の党の行動ではありえない。事実、確実に審議もされないことが解っている法案である以上、今かかる行動をすることに何の意義があるのかと考えることが常識でもあろう。
拙速な行動では法律はできない。与党自民党は当然好ましくないというスタンスになるのだが、一方、この問題を選挙の争点にはさせたくないという考えもある。法案の内容に関しては与野党いずれもが、原則合意している方向性でもあり、反対できにくい。一方アプローチとして維新が強力にこれを政治的に進めようとすれば、自民党としては、現状は維新と同一歩調は取り難いということになる。早くやれとする維新の動きを今の状況で自民党が同調することはありえない。7月の参議院選挙後の政党間のパワーバランス次第で状況は大きく変わるため、当面は争点にしないという態度が見え浮かぶことになった。また、一部自民党若手議員は、参議院選挙で多数派をとり、与党自民党主導で維新の党等を無視して、独自に法案提出をすべきとする過激な意見もあった様である。この維新の党の行動により、超党派議連も7月の選挙迄は何もしないし、またできないという状態に陥ってしまったのが現実となった。本来であるならば、会期末前に、秋の臨時国会に向けて、地歩を固め、今後の方針や推進法ではなく実施法の基本的な考え方を詰め、着実に、かつ確実に実現へのステップをとることがあるべき筋なのであろうが、永田町の論理はそう単純には機能しないということになった。但し、維新の党の意図はどうあれ、同党による行動が、結果的に事態を混乱させ、前へ進むステップを停滞させたことは間違いない。法案は形式上受理され、閉会中審査ということになってはいるが、まず進展は見られそうもない。最初に法案を上程した等という主張も価値があるか疑問である。確実に仕切り直しになると想定されるからである。法案を一緒に、確実に上程し、実現するよりも、自党の我を主張することがより重要とすることが、残念乍ら永田町の論理になる様だ。